sunnyday さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
鮮やかな諦観を感じながら
まず本作を観終わって、頭の中に諦観という二文字が浮かんだ。諦観という言葉はもともと仏教用語で、諦(アキラ)かに観(ミ)ると読み下し、
「物事の本質をよく理解すること」
「俗世に対する希望を断ち、超然とした態度を取ること」
という意味を表す。
辞書を開いて意味を確認しながら、なるほど、これはチトとユーリにぴったりの言葉だな、と思った。そう、この言葉は本作「少女終末旅行」を表すのに本当に最適な言葉だ。
・「物事の本質をよく理解すること」
本作では終末を旅する二人とそれを取り巻く街並み(=廃墟)のみが淡々と描かれていく。
何故なら、本作の世界にはそれ以外に何も無いからだ。
この何も無い世界において、チトとユーリという二人の少女は住居や宗教、音楽といった概念について、独特な感性をもって理解しようとする。そこには、彼女たちの荒廃した世界に対する憧れや諦めのようなものを感じた。(5話「住居」では、その感情が特に分かりやすいかと思う)
先入観の無い二人の世界に対する反応は、とても興味深く、現代人にとってはっとさせられるものもあった。例えば、音楽を聴いて涙が出ることを知らないチトや、チョコレート風味のものしか食べておらず本当のチョコレートに気づかない二人を見て、文明にどれほど前提条件が多いのかを実感した。
・「俗世に対する希望を断ち、超然とした態度を取ること」
この意味において、諦観という言葉はなにか特別な示唆を本作に与えてくれる。
僕が思うに「俗世に対する希望を断ち、超然とした態度を取ること」とは、本作のキャッチコピーでもある「絶望と、なかよく。」と同義ではないか。二人は最終回で、自分たちがこの世界で最後の人類だということを知る。そんな絶望的な状況の中でも、少女たちはそのことを静かに受け入れて、「超然とした態度」を取った。すでに二人は、「絶望となかよく」なっていたのだ。
・鮮やかな諦観
本作で一番好きな話は、6話だ。この話では前述した、この世界に対する憧れと諦観が清々しく描かれている。
対岸の街に向かう為に、飛行機を作ってそれで飛行しようとするイシイの気概。そしてその夢虚しく、「歴史上最後の飛行者」として落下していく彼女の表情の清々しさ。彼女は、鮮やかな諦観をもってこの世界に向き合っていたのだ。まさに本作のキャッチフレーズでもある、「絶望と、なかよく。」を表している。
鮮やかな諦観は色褪せて、やがて誰も居ない街のようにモノクロになってしまうだろう。しかし、二人の最期は穏やかな色で満たされていることを確信している。だって、二人はいつも二人だから。
以下観点別レビューです。
{netabare}-物語について-
チトとユーリの二人が、戦争によって人類が居なくなった世界を相棒のケッテンクラートと一緒に、街の上層を目指して旅をするお話です。(ケッテンクラートって実在するんですね、Wikipediaで画像を見てみたんですが本物もかわいいです)
一話の中に2,3個のお話が入っていて、見やすいつくりになっています。ストーリーの起伏が中盤まで少なく退屈になってしまいますが、終盤の展開がテンポ良くて最後まで楽しく見れました。
-作画について-
モノクロに近い色で描かれた街の構造物と、チトとユーリのもちもちした顔の作画は対称的で、本作の不思議な世界観のアクセントになっています。
-声優について-
ユーリののほほんとした声は、キャラクターの性格にも合っていて良かったです。あと、旅の途中で出てくる人の声がやけに大御所でしたね。
そして、ヌコの声が花澤香菜さんでめっちゃかわいくて癒されました。
-音楽について-
僕は本作のOPとEDが大好きです。OPではピコピコした音に合わせて、二人がノリノリで踊っているのを見てほっこりしましたし、EDの始まりで「終わるまでは終わらないよ」と二人が言ったのを聞いた時は、その言葉の重さにぞわっとしました。
-キャラについて-
登場人物は、終末とは似ても似つかないような性格をしています。チトはしっかり者で高所恐怖症、ユーリはとにかく食べ物に目がありません。ですが、どこか寂しそうな感情をところどころで覗かせます。魅力のあるキャラクターでした。
-その他-
・{netabare}本作では、二人が終末という「何もない世界」から荒廃する前の「何でもある世界」に憧れを抱くシーンがありますが、このアニメを見ている視聴者は、「何でもある世界」から「何もない世界」に憧れていることもあるわけで、この二つを対比しながら見てみても、本作が楽しめるかも知れません。何も無いところでストレスフリーに暮らしたいだなんて思える私達は、チトとユーリの置かれた環境に比べれば幸せ者かもしれないですね。{/netabare}
・{netabare}自分は、このアニメを丁度「宇宙よりも遠い場所」を見終わった後に視聴したのですが、よりもいのように記述量の多い作品とは違って、本作のように余白の多い作品は、考えさせられるところが多くて良いですね〜。別に何も考えずに見てても面白いし。{/netabare}
ここまで色々と書きましたが、正直な所、中盤の内容が冗長だった感じは否めません。ただ終盤の数話を見て、本作を途中で切らないで良かったと心から思いました。もし0.75クールというものがあれば、それぐらいが丁度良かったかも知れません。内容も単調で楽に見れるので、時間のある時におすすめしたいアニメです。{/netabare}
みなさんも、「絶望となかよく」なってみて下さい。