「今、そこにいる僕(TVアニメ動画)」

総合得点
69.1
感想・評価
286
棚に入れた
1460
ランキング
1907
★★★★☆ 3.6 (286)
物語
3.9
作画
3.5
声優
3.6
音楽
3.6
キャラ
3.5

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3
物語 : 2.5 作画 : 3.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.0 キャラ : 3.0 状態:観終わった

ただ、そこにいるだけの僕。

アニメーション制作:AIC
1999年10月14日 - 2000年1月20日に放映された全13話のオリジナルテレビアニメ作品。
監督は大地丙太郎。

【概要/あらすじ】

現代日本に暮らす普通の中学生・松谷修造(通称・シュウ)という、
如何にも暑苦しそうな名前の少年がいた。元気で明るい性格の腕白坊主である。
シュウは修造という名前に反して道場に通いテニスではなく剣道を習っている。
だが、シュウの動きは体力任せに突っこんで面に向かって竹刀を叩きつけるだけであり話にならず、
対戦相手の少年からも剣道と呼ぶには、お粗末な代物であると蔑みの目で見られる。

そして道場帰りにシュウは、夕暮れの工場の煙突の上にじっと座ってる青い髪の少女を修造は見掛ける。
話しかけても、少女は寡黙で何を言ってるのか視聴者には聞こえない。シュウには聞こえているのだが。
少女にずっと話しかけ、沈む夕日を一緒に見ていたシュウだが、妙な機械に載った連中が現れて少女を攫う。
シュウは少女を回収して去る者たちの時空ワープに巻き込まれて、見知らぬ建物の中に転移した。
そして、少女の手を引いて兵士たちから逃げるシュウ。
だが少女は捉えられ、はぐれたシュウは外部に飛びてて建物から落下しそうになる。
そこでシュウの目に映ったのは明らかに日本とは異なる、大地が乾いて荒廃しきった見知らぬ世界だった。

建物は「ヘリウッド」という今は飛べない塔の形をした機動要塞であり、主である狂王ハムドは、
要塞と軍隊の力を背景に侵略戦争で略奪や破壊と虐殺で散々に人々を苦しめていた。

「ヘリウッド」を再稼働して世界征服に再び乗り出すには動力に用いる大量の水が必要であり、
水が極端に少ない、この世界では少女ララ・ルゥが持つ水を生む力が無くては必要な量が確保出来ない。
だから、ララ・ルゥを執拗に狙っていたのだ。

狂気の独裁者によって人の心も生命も蹂躙されていく不毛な世界で、      
シュウは過酷な現実に巻き込まれて様々な不条理を経験していく。

【感想】

「未来少年コナン」風の世界での物語なのだけど、50億年後の滅びに向かっている未来の地球らしい。
んで今の人類は既に滅んでいて、未来の地球にいるのは別個に進化した新しい人類だとかなんとか。
設定が沢山あるんだけど、作中で明示されている部分は僅かで説明不足が目立つアニメ。

軍隊が陰惨な組織として扱われ反戦思想を連想させる台詞や展開が多いアニメであり、
兵士は家族や故郷を守るために戦うわけでもなし、独裁者ハムドの野望の使い捨ての駒でしか無い。

ハムドは愚劣な権力者で自分可愛さに敵の生命も部下の生命も平等に磨り潰す外道。
んで、仲間の兵たちがハムドの命令で犬死しまくっても無批判に従う大人の兵士たち。
そんなダメな大人の下でハムドの下で考えることをやめて、殺戮に手を貸す少年兵たち。

ハムドの軍隊に攻められた土地は虐殺され爆破されて廃墟となり、
生き残った者は男は兵隊にされて女はハムドに忠実な兵隊に育てる子供を無理矢理に孕まされるっと。

拉致・略奪・暴行・殺戮・陵辱・破壊・拷問など軍隊の悪辣さが、
これでもか!と描かれていて反戦プロパガンダのような恣意的な作風。

大地監督や脚本の倉田英之の描く、軍隊のイメージが作為的過ぎる気がしないでもない。
作中の描写をもって軍隊や戦争の原罪とするには、暴君ハムド個人の意向の部分が強すぎるのだが。

描写のモデルはアフリカの少年兵であったり、ライタイハン問題を連想させるのもあったりで、
現実の戦争の負の部分の集合体というのが、このアニメでの軍隊の扱いかな?
こんな酷いことが出来るハムドが立派な人物では物語が成り立たないだろうってことで、
小物のマジキチにされたのかもしれない。オカッパでちょびヒゲで甲高い声で泣くし。

世界中の戦争に存在している悲惨な要素を参考にしてると思えば、
右とか左とか言った視点から一概に否定できるものでもないかもしれない。
日本的な美徳や常識が通用しない世界が、今の地球に数多く存在しているのだ。

殊更にハムド率いるヘリウッドの外道さが、この上なく強調されてはいる。
ゲームやアニメのパターンとしてフィクションの世界では体制側が圧倒的な悪として扱われ、
それを打倒するレジスタンスに大義があるような描かれ方が多いのを想起させることが多い。

だが、現実の歴史を見ると“反権力”“革命”を唱える組織はテロリズムに走り、
暴力や粛清や見せしめの公開処刑など流血に彩られている。
それを命令する他罰的な“革命の英雄”が権力を握ると、密告を奨励して逆らうものは処刑するなど、
前の体制とは比較しても陰惨な独裁者の時代になることが珍しくもない。
フランス革命の残酷さは周知であり、貴種の血の上に建国された共産主義や社会主義の国家がどうなったか?
今の時代も先人たちと比較するとマイルドではあるが、いざ権力を握ると私物化しようとする動きがある。
無論、武力紛争が続いている国では人の生命が軽々しく失われ続けているのだが。

エネルギッシュな権力憎悪が革命のエネルギーの源であり、革命成功の暁には成り代わった者が権力強化に逸る。
ので戦争をテーマに作品を作るには、『悪い奴を倒しました』『平和になりました』『メデタシメデタシ』
なんて単純な茶番が通用するわけでもなく、権力vs反権力と人道と平和主義だけでは不十分ではある。

この作品は、悪辣な権力者を倒す勧善懲悪の革命英雄物語ではない。
反権力で暴力を振るう者も、力の関係で立ち位置が弱者になっているだけであり、
戦わない理想主義者も滅びの道でしか無いことが作品の中で示されていて、
どの立ち位置も不完全なものであり、作中の台詞はあくまでも登場人物の個人的な主張や思想という扱いであり、
これが絶対に正しいと決めつけていないあたり、一応は考えてシナリオが作られているように思える。
それは、主人公であるシュウも同じであり、シュウの空気を読めない気休めの連呼は視聴者に違和感を与える。
シュウは荒涼とした世界にそぐわない異分子なのだ。

ただ、殺しにやってくる悪党に対して抵抗する力を持とうとすると、
悪党と同じになる!というメッセージは納得し難い。
何十年議論しても平行線で噛み合わない安全保障の話である。
泥棒がいても説得すれば解ってくれるから警察はいらないという主張に等しく、
性善説や精神論に依存した、思考停止気味の主張ではある。

平和主義者の唱える話し合いによる解決が出来れば、それは素晴らしいことなのだが、
残念なことに、敵対行動をしてくる異国を相手に話し合いが可能だと主張する人たちが、
国内で政治的スタンスが違う人達相手の話し合いを拒んでいる実例がある。
主義や思想や利害関係の対立によって他者を蹴落とそうと必死な者たちを見るにつけて、
人間は自己矛盾を抱えながら、武器があれば銃を手に取り、
無ければ暴力の代わりに言論で工作を仕掛けるのである。
人が集まるところに必ず争いが起き、教条的な理想主義は提唱者の言動が矛盾だらけだったりする。

このアニメでは空気を読まずに感情論を貫く主人公、
そして現実的な打開策を見いだせないままに理想論のみを口にする者の、
無力さと末路を見るに、実は確信犯的なシナリオにも思える。
主人公の根拠の無い無責任な楽観論が周囲に何をもたらしたかは、自分の目で確かめて欲しい。
教条主義に囚われて真剣に目の前のことに悩んで立ち向かうことをやめた結果として、
やるせない展開が続いて綺麗事が見事に打ちのめされていくことにこそ、この作品の意味があるのかもしれない。
{netabare}主人公のシュウは周りに何を言われようと鈍感であり自分の価値観の外側にあるものを絶対に認めない。
そして、シュウの根拠もなく現実を見てない言葉に心が動いた人物が尽く死んだり不幸な目に遭い、
シュウは傷の浅いままに何も変わらないままに元の世界に帰還して日常を再開するというラストに、
蒙昧な理想主義は口先だけの現実逃避であるし、何も良いことがないという強い皮肉を自分は感じた。{/netabare}

単純な反戦プロパガンダと断ずるには違和感をおぼえるのは、深読みし過ぎかもしれないが、
どういう意図で作られたのか知りたい作品ではあった。
作品によって世界観が異なるので一概に比較はできないが、
甘っちょろさが鼻につくアニメ版タイラーとは正反対の作りであるという点では、肯定的に見ることが出来た。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2018/03/18
閲覧 : 471
サンキュー:

33

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