fuushin さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
語れること、語らせないこと。
本作を鑑賞するのは、新海氏の3作目(言の葉の庭→ほしのこえ→本作)だった記憶があります。
で、今回で4回目の視聴となり、レビューしてみようと思い立ちました。
● 作品について。
ジュブナイル世代に特有の、目の前に見える現実への理解と評価への "覚束なさ" や、乖離した世界に対して、統合を訴求する無意識のなかの "抗戦性"。 ともすれば空疎さにもつながりかねない独りよがりな "想像性" や、勢いのままの約束にも確かな答えを見出そうと苦悩する "一途さ" などが入り混じって描かれます。
これらの要素が、開戦まぎわという "彼らにとっての非日常" の緊張感の中で、(この設定すらも、戦後世代の私たちには、実感性も想像性も持ちにくいというハードルの高さがありますが)、嫌がうえでも高まっていく閉塞感と厭世観を突破する萌芽として、しずかに成長していきます。
そうした混乱と混迷もまた、彼らの "生きている日常の全部" であり、それゆえに、かつての僅かな時間、温かい記憶に遺された "約束の場所" に行きつこうと希求する想いは、簡単には捨てられないものなのでしょう。
挫折と別離によって、今にも切れかかりそうになっている細い糸を、"彼らの日常" にふたたび取り戻そう、手繰り寄せて縒り合わせようと、それぞれの意識性と献身の方法で、先鋭化・具現化していく3人の若者たちの懸命な姿が描かれています。
彼らが心を寄せあい、集うべき場所の目当てと象徴が、ユニオンの尖塔です。
恐るべき破壊兵器でありながら、一方では、天上から垂れ落ちる蜘蛛の糸のようにもみえる白く輝くその垂線は、彼らが歩むだろう救いの道しるべのようです。
でも、大地と天空とを結ぶのは、白いそれではなく、愛を睦みあう、純白無垢な祈りの飛翔こそがふさわしい。
それを名付けて、ヴェラシーラと呼ぶのですね。
● 新海氏の作家性について。
量子力学の解釈における自己の実存性と、心理学における自己覚知への意識性。
両者の関係性を、夢見(無意識性や潜在意識)とか、恋愛感情(激情ともいえる顕在意識)とかのコトバに置きかえたり、シチュエーションに落とし込んだりして演出する(例えば、シナリオの49%をSFチックに、51%をロマンティックにブレンディングする)のが、新海氏の十八番(オハコ)です。
もうひとつの特長は、氏の "猫遣い" に表象されるところの近代日本文学へのオマージュがあり、合わせて、わが国の明治期以降の文化的黎明期における歴史的背景や時代性を踏まえている視点があります。
また、"空、星、宇宙" などに象徴されるところの、日常性とはかけ離れた、より高次元からの視点や、人類の意識性の遠く及ばない未来からの眼差しが色濃く反映されているようにも思います。
広大にして無辺の宇宙と、無限のなかに与えられた有限の時間とを対比させながら、自らの実存さえも観測できないようなほんの微かな接点に、氏は一つのステージを設(しつら)え、二つのシナリオを敷き、スポットライトを用意します。
演ずる二人の魂は、灯明のまどかのなかでその視線を交わしあいます。
刹那に赤い糸を見つけだして、やがて春に笑みわれるハッピーエンドを映し出すときもあれば、その端緒に触れることも許されず、ついに睦みあうことの叶わぬ絆の儚さに、愁訴する涙を描くときもあります。
その表現性は、優れて繊細、あまりにドラスチックであり、その後の氏の演出は、ますます沈潜と突出を繰り返していったように感じます。
本作においても、視聴される方の心にその足跡をたしかに刻み付けるものでありましょう。
ユニオンの尖塔は、天に唾吐くバベルの塔の再現を象徴しているよう。
北海道の消滅は、かの国に起きる天変地異の凄惨さを象徴しているよう。
そのシーンには、矮小で偏狭なイデオロギーに支配されたリーダーが、未だ神の意志に背き続けている浅ましさを感じます。
また、ひたすらに資源の収奪を図るサピエンス経済の膨張と傲慢さを、許容し助長させている市井の人々への警鐘とも受けとれます。
国家という概念が、自然淘汰とは全く違う意味合いで、即ち、人心に棲みつく猜疑心に鍔ぜりあう、戦略・戦術に活用され続けていることへの、深い悲しみと苛立ち、そして痛烈な批判というアンチテーゼが含まれているように、私は感じました。
とは言いましても、それさえも、私の些末な独り言。
本作に込められた深遠な文化性には、とんと及びません。
それでも、氏の描き出す作品性には、ジンワリと浸透し、マグマだまりのよう内包し、いつか身近な暮らしの環境や世界の情勢を、一変させるかのような力を醸成しているかのような、そんなメッセージ性をいつも感じてしまうのです。
本作にも、そんな思いで心を寄せて楽しみました。
雲とは、人の心に生じる雑念を示していると思うのです。
その向こうには、きっと約束の場所があるはず。
そこに至るプロセスは、超高度技術にかける希望の芽と、古いイデオロギーの崩壊と終焉に象徴されています。
新旧二つの世界線をリレーションするのは、ヴェラシーラに象徴されるピュアなパワーを持った若者たちです。
決定的に世界を変える秘密?
もしかしたら、"天気の子" の先につながっていくキーワードが明かされるのでは?と、つい期待してしまいます。
長文を最後までお読みいただき、ありがとうございました。
本作が、皆さまに愛されますように。