蒼い✨️ さんの感想・評価
2.9
物語 : 1.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 1.5
状態:観終わった
趣味に走りすぎた映画は何を残したのか?
アニメーション制作:プロダクション・アイジー
2012年4月7日に公開された劇場版作品。
原案・監督・脚本・絵コンテは沖浦啓之。
【概要/あらすじ】
小学6年生の女の子、宮浦もも。
彼女は、母・いく子と共に東京から瀬戸内海の大崎下島(広島県呉市)に引っ越してくる。
住む場所は、いく子の年老いた叔父夫婦が住んでいる古い民家の敷地内。
そこにある家屋のうち、使っていない一棟を借りる形。
父親であり夫である海洋学者のカズオは、少し前に仕事中の事故で故人となった。
ももは、生前の父親との最後の会話で行き違いで怒りをぶつけて喧嘩別れのまま、
二度と会えなくなったことで悔いを残していた。
父の遺品の便箋があった。“ももへ”と三文字だけの書きかけで終わっていて、
父は娘に何を伝えたかったのか、知るすべがない。
自分一人で何でも決めてしまう母親とも意識が噛み合わない。
住み慣れた土地を離れての島での新しい暮らしも、あまり好きになれない。
そんな、ももの家から怪しげな中年男どもの声が聞こえるし、食べ物が荒らされるいう事案が発生。
そして、夏の夕立の降る中、雨宿りに立ち寄った祠で、イワ・カワ・マメという3匹の妖怪が姿を現す。
姿は珍妙であるし、図々しくて食い意地が汚いし、よく物を盗む。
どうみても不審者な妖怪たちは、ももの家に強引に居着いてしまうのだった。
【感想】
沖浦監督のことを知らなかったが、ネットで調べたら数々のサンライズやIG作品で原画マンとして実績があるっぽい。
この映画は、制作開始から7年かけて完成。『人狼』から数えて12年ぶりに公開された監督作品。
作画監督の安藤雅司 = 『もののけ姫』など多数のジブリアニメ。『君の名は。』など。
副作画監督の井上俊之 = 『SHIROBAKO』作中で神アニメーターという役どころの杉江茂が描いた原画担当。
作画に関しては業界の一流どころを集めて、拘りに拘った感じ。技術そのものは本当にハイスペック。
しかし、自分がアニメ的デフォルメに慣れきってるせいか、キャラデザに魅力を感じない。
出てくる人間の表情はシワクチャでリアル寄りだし、鼻の穴が目立つ。
妖怪たちは、イロモノ過ぎる姿形だけでなく、
鼻から抽出した老廃物を丸めたり尻から異臭を放つ気体を出したり所作も下品さが意図的に強調されている。
くすんだ色設定のせいで全体的に小汚く見える。人に見られてどう思うかより、
クリエイター自身が納得するために作られた自画自賛系のアニメーション。萌えも媚びも一切いらないぜ!て感じ。
作画のディティールへの拘りのみが突出して、それ以外の部分への情熱が薄くなってしまうのは、
昭和末期から平成初期にかけてのOVAやアニメ映画にありがちなことであり、
沖浦監督は当時働いてたアニメーターの申し子である。『君の名は。』には参加しているものの、
今どきのアニメには参加してないことから、時代に適合していないのかもしれない。
低予算でも魅力的なキャラデザもあれば、丹念に技術を込めて作っても首をひねってしまう代物もある。
視聴者の好みを察知して時代に合わせて作風を変えていくのも、長く活躍するための能力である。
漫画家だって絵柄の変化は珍しくもなんともない。
キャラクターデザインの安藤雅司は『君の名は。』では田中将賀の原案をキチンと生かしてデザインできてることから、
この作品でのキャラデザの野暮ったさは、連名の沖浦監督の好みが大きいのだろう。
このアニメを見てて疑問に思った。どういう層を対象に作ってるのだろう?
子供の目を引く程度のカッコイイもカワイイも無い上に、親のうざったさ&全体的な年寄り臭さが強い。
登場人物に小学生が一定数いるのだが、大人の思う記号的な昭和の子供風であり、
今どきの子供目線のワクワクや楽しみが、彼らの行動からは存在しない。これでは子供が観ても共感しない。
二次ロリ好きからも論外だろう。キャラの造形が記号的な子供ではなく、表情が半端にリアル寄り過ぎるのだ。
となると大人向け?主人公・ももと似た年頃の娘を持つ男性向けだろうか?
三匹の妖怪がキワモノ過ぎて、あれを可愛いと思えない限り女性ウケをする作風ではない。
クリエイターが好き勝手して、なおかつヒットするのは視聴者と感性を一致できたケースのみである。
興行成績の振るわなさをみるに、総指揮に近い形で監督の趣味に走りすぎて客の心をつかみ損ねたのでは無いか?
ストーリー的には、異形の姿の怪しい中年三人組が女児にまとわりついたり窃盗行為を繰り返してるだけである。
これが人間なら、確実に国家権力によって手錠をかけられる。女児の入浴中にちっちゃい妖怪おじさんが乱入してるし。
おじさん目線の変態チックで犯罪まがいの日常をユーモラスの一言で笑って楽しめるか、
ぞわっとするかで評価は分かれると思う。これを見て、笑い転げるのは娘がいてチューしたい年頃の男性かもしれない。
作画的には凄いと思えるシーンが後半にあったり、終盤近くに感動アニメ要素があるのだが、
二時間という枠の使い方で犯罪者まがいの妖怪たちが絡む日常が冗長であり、
後半に本筋に入ったところで脚本の都合による展開であるためにキャラに愛着が湧かない。
視聴者がアニメに何を求めるかと作者の感性についていけるか否かで、評価が分かれる作風である。
個人的には三匹の妖怪が好きになれなかったのでイマイチなアニメというのが正直なところ。
阿りが強かったりテンプレ過ぎてもよくないのだが、理想や美化で脚色することが一切ないと、
こんなにもビジュアル的に厳しいアニメが出来るのかと本当に驚いた。
人材を集めようが時間と予算をつぎ込もうが、やりたいことしかやらなかった結果として、
不発に終わったのがこれである。せっかく一級のアニメーターを集めながらも宝の持ち腐れで勿体無いと思った。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。