たわし(爆豪) さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
70年代「少女漫画」+フランス革命期「ロマン主義」
「あの花」や「ここ叫け」でお馴染みの脚本家、岡田麻里による初アニメ監督作品。脚本家がアニメ監督になる例はほとんどありえないが、かなり思い切った判断だと思う。
以降ネタバレ含みますのでご注意頂きたい。
世界観が中世ヨーロッパを下敷きにしたファンタジー世界であり、昨今流行りの「ダークファンタジー」ではなく、どちらかといえばロードオブザリングやゲド戦記寄りの「ハイファンタジー」である。
ファンタジーブームもさる事ながら、流石に脚本歴が長く大御所に近い存在だけあって、プロットやお話全体の構造に一切の破綻がなく、テーマも一貫して通っている。岡田麻里脚本の特徴は所謂少女漫画に多く存在する「群像劇」や「人物の感情とその行動」に趣を置いた「叙情的」な話がほとんどであり、全体的な構造がいかにも女性らしい「感情の揺れ」をセンターに置いて作られている。
ちょうどフランス革命期の「ロマン主義」と言われる一連の小説や絵画の世界観がおそらく根底に有り、中世キリスト教が支配していた理性や禁欲からの脱却、身分や法律を超えた人々の絆や感性の世界観である。例を挙げれば、フランスの代表的な文筆家ヴィクトル・ユーゴーの「レ・ミゼラブル」があり、本作はそれに70年代少女漫画にあるファンタジーやSF作品にオマージュを捧げている。我々の「近代」からなる民主主義や自由恋愛などの概念が確立した時代であり「モダニズム」の始まりでもある。なので作品のスタンスが非常によく練られているし、登場人物に性格の破綻した人間が存在しない。
代表的なところで言えば萩尾望都の「ポーの一族」や「トーマの心臓」、竹宮恵子の「風と木の詩」や「地球へ」といった作品であり、その片鱗が作品内に漂う空気感になっている。
本作は特にこれから結婚する人や新婚の女性、あるいは「妊婦」や子育て経験のある女性には非常に訴求力が有り、ネタバレになってしまうのであまり書かないが、
10代半ばで外見の成長が止まり、数百年生き続けることから「別れの一族」と呼ばれるイオルフの民の少女であり、本作の主人公「マキア」に感情移入した途端に「母になる」とは「親になる」とは一体どう言うことなのかということに無条件に反応してしまう。それは一昨年前に公開されたSF映画、ドゥニヴィルヌーヴ監督の「メッセージ」と重なるテーマでもある。
初監督とは思えない成熟した世界への視点は、講談社少年マガジンで連載中の大今義時(「聲の形」の原作者)の「不滅のあなたへ」と共通したテーマであり、男性の漫画家やアニメ監督が「デビルマン」に影響受けたのと同様に、少女漫画界では萩尾望都の「ポーの一族」がやはり一線を超えた境地に達しているのだと思う。恐らく次回作は「不滅のあなたへ」になるのではないだろうか?
しかし、理性や合理主義といった「ルネサンス」から脱却した人の感情や個性に感化した「ロマン主義」の最大の欠点は、叙情的なお涙頂戴ものがほとんどになってしまうことだ。これは現代の少女漫画全般に当てはまる傾向でもあるが、本作も例によって主人公がよく感極まって「泣く」シーンが多い。あるいは主人公が育ててる血の繋がらない子供エリアルもよく言えば感情的で情熱的。悪く言えばオーソドックスなタイプである。現在は近代資本主義の原点である「モダニズム」から、虚無感や閉塞感の世界「ポストモダニズム」の時代なので若干の「擦れ」が生じている。
もう少し大人向けに感情を抑え「泣ける」を超えた感動を表現することができたら世紀の傑作と太鼓判をおせたかもしれない。そういう意味では、先ほど話した大今義時原作の「不滅のあなたへ」はちょうど良い素材なので、是非とも挑戦してもらいたい。