101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
記録か?忘却か?喉が渇くらい乾いた砂上のハイファンタジー
原作コミックは未読。
砂の海に浮かぶ“泥クジラ”という設定から醸される乾いた雰囲気に惹かれて視聴。
とにかくドライな表現が目に付いた本作。
例えば{netabare}“情念動(サイミア)”で戦う幼い子供たちが、
まるでかくれんぼの鬼みたいなノリで、無邪気に次の敵を殺しに行く……。
それに対し子供たちを戦場に送る決断をした首長が、
良心の呵責に苛まれるというシーンがありました。{/netabare}
およそヒロイズムからはかけ離れた描写に、
それ表現しちゃいますか……(汗)と思わず苦笑いすると同時に、
これは一味違うと惹き付けられました。
この他にも本作には多数の死別がありますが、
死別の瞬間自体は意外とあっけない印象。
大切なあの人も寿命を迎えた電球みたいに、
あっという間に瞳から光が失われ絶命。
戦の最中も射的ゲームのまとみたいにパタパタと人が倒れて行きます。
それなりの作画ソースを有したスタッフ陣が、作画枚数の省エネではなく、
意図して簡素な死の表現を積み重ねていると感じさせるのが、ある意味凄いです。
対照的に“砂葬”のシーンがかなり頻繁かつ長いのが本作の特徴。
本作みたいに“感情”をテーマに押し出すと、
致命傷喰らったはずなのに、一体この人はいつ死ぬんだろう?
というくらい今際の台詞が長文化する傾向がありますがw
本作の場合、感情を突き詰めた結果、
死別の瞬間は理解と激憤、対応で手一杯。
湿った哀悼の気持ちは葬儀などでじっくり洗い流して……。
という様式に辿り着いているのが興味深かったです。
強いて死別の瞬間が長かったシーンを挙げると、
{netabare}オウニが二ビと別れる場面くらいでしょうか。
ただ、あれにしても、肉体の死は一瞬で終わり、
後は精神世界での描写でしたが……。{/netabare}
その他、私が感情以外にテーマとして惹かれたのは記録について。
本作の主人公少年は初期能力が低い記録係。
頼りになる群像間を右往左往する典型的な狂言回しのポジションなのかな?
と思っていましたが、終盤に記録の重要性がより明らかになり、
この少年もテーマを背負った主人公キャラなのだなと思えるようになりました。
物語の核心に触れつつ例示すると、即ち、
{netabare}人間の寿命を“魂形(ヌース)”に捧げて“情念動(サイミア)”
を得ていたチャクロたちの“泥クジラ”だけでなく、
帝国もまた感情を“魂形(ヌース)”に捧げて文明を成り立たせていました。
そして、それらの事実を例えば感情は罪悪などと、
でっち上げも交えて隠蔽することで、秩序を維持しています。
そもそも砂に覆い尽くされた世界の惨状についても、
人類の原罪と神罰を大いに想像させられますが、
真相は容易に変容する伝承により煙に巻かれています。
忘却こそ楽園の必須条件。
秘匿で形作られた世界に対して事実をありのままに記す
使命感を抱いた少年は危険な存在だと思われます。
楽園の嘘を知り、チャクロたちの“泥クジラ”では、
早くも不協和音が生じていますし……。
今更、現実を知り、“魂形(ヌース)”との契約を拒絶して、
感情や寿命などの人間性を奪還しようにも、
この砂の世界では、人間たちが皆ありのままで暮らしていける
まともな地表など早々見つかりそうにありません。{/netabare}
「チャクロの日記」なる記録がこの先、
秘伝になるのか公伝になるのかは定かではありませんが、
彼が握っているペンには案外バルス級の破壊力があるのかもしれません。
私にとっては主人公もようやく確立されて、
やっと物語が始まったところでの1クールアニメ終了。
そういう意味でも、誠に喉が渇く展開w
このまま渇きを我慢せずに原作追い掛け始めるのも一手ですが、
この物語はうねる砂の海を映像で眺めながら飲み干したいので、
是非アニメ2期実現を望みたいです。