「リズと青い鳥(アニメ映画)」

総合得点
85.9
感想・評価
572
棚に入れた
2364
ランキング
220
★★★★★ 4.1 (572)
物語
4.0
作画
4.3
声優
4.0
音楽
4.2
キャラ
4.1

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ネタバレ

P_CUP さんの感想・評価

★★★★★ 5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

俺はこの映画を観るためにユーフォシリーズを追いかけて来たのかも知れない

すでに3回も鑑賞しているが、観るたびに心に五寸釘サイズの何かを突き立てられる思いである。
しかも、これにはどうやら返しが付いてるようで、永遠に抜けそうにない。
ひょっとすると、このままリズと青い鳥のことだけを考えて生涯を終えるかも知れぬ。
そういうレベルでこの作品は我が精神に巨大な傷を残してくれやがった。
京都アニメーションと山田尚子に対して損害賠償請求を検討しなければなるまい。


・エンタメ性をかなぐり捨てて浮かび上がる映画的「美」

話が地味だとか、これまでのユーフォシリーズを見てなければ理解出来ないだとか、
絵柄は元の方が良かっただとか、やっぱコンクールでの演奏がなきゃ盛り上がらないとか、まあ、賛否が出るのは理解できる。
だが、他人がどう評価してようと、そんなものを忖度して評価を下げるほど愚かなことはない。
誰がなんと言おうと、これは自分の中では5点満点、いや、5億点の「映画」である。
ここまで、強く「美」を感じる作品に、少なくともここ数年、お目にかかったことがない。
この作品を見ると、実写・アニメ問わず、如何に「エンタメたるべし」と思うあまりに、設定を詰め込み、目まぐるしく展開させ、結果、映画的な「美」を損なってしまっているものが多いかを思い知らされる。


・多重的、多元的に重ね合わされる意味と表現

場面場面に対して、これでもかとばかりに意味が幾重にも重ね合わされている。
また、一応、映画の文脈に沿ってレイアウトなどが組まれている一方、従来の山田尚子作品で多用された「花言葉演出」みたいなものは、あまり見かけなかった。
あれは、意味を直接的に台詞などで語らせず、画面に描くものによって間接的に表す手法だったわけだが、今作は全くノーヒントな場面も多い。
よって、「このように見よう」という、鑑賞側の意思が介在しない限り、意味を1つに絞ることは出来ない。
そして鑑賞者側のそのような意思には、各自の経験なり価値観なりが反映される。
従って、見る人によって、この作品から何を見出すのかは大きく変わってくる。
事実、すでに一家言ある鑑賞者によって、はてブロやらなにやらに、リズ鳥を論じる文章が多数投稿されているが、その解釈は見事にバッラバラである。
仮に作り手が、「其処此処のシーンはこれこれの意図で作りました」と述べたとて、果たしてそれが唯一の正解であろうか?
表現しようとしたものと実際に表現されたものの間には大きな隔たりがある。
理を以ってこの映画を解釈しようとすれば、おそらくこの映画の本質から最も遠いところに立つことになるだろう。


・やまとごころとからごころ

源氏物語より1000年。物語は、また宇治から生まれた。
・・・などと言ってしまえば、さすがに大仰に過ぎるが、リズと青い鳥、或いはユーフォシリーズ全てに於いて、その底流・本質には「やまとごころ」が、ごく自然な形で存在しているように思えてならない。
少女たちの、あるがままの感情を、価値観や倫理観によるフィルターなど通さず、あるがままに見、聞き、そこから生ずる情趣に思いをいたす、すなわち「もののあはれ」である。
ならば、「からごころ」を以って、物語の善悪是非を問うのは、あまり勧められた見方ではないだろう。
価値観・倫理観に照らして、作品を解釈し、或いは断罪し、それで理解出来たと思うのであれば、「大罪を犯している。傲慢というやつだ」(by折木奉太郎)
作品をあるがままに見やったとき、その、言語化不可能な、ドロドロに煮えた感情の塊のようなものを耳目から流し込まれる感覚に陥る。そして、また心に刺さる釘が増えてしまうのだ。


・で、結局、リズ鳥はどうなのよ?

論ずるに術がござらん

disjoint


・余談、或いは小ネタ

「Dried Up Youthful Fame」という曲がある。Free!2期のOPのことだ。
「・・・は?なんでここでFree!が出てくるんだ?」
そう仰らず、ちょっと1番の歌詞を調べて読んでみてもらいたい。(ここに書くのは著作権的にアレなので)
この歌詞、Free!のイメージを廃した状態だと、なんというか、希美のことを歌ってるように思えて来ないだろうか?
自分は、リズ鳥を観て以降、希美の、あの朗らかな笑顔と、その裏に隠されている巨大な感情が思い浮かんで仕方がない。


・余談その2

この映画が公開されてから、ツイッターなどの反応を漁っていると、
ちょくちょく目にするのが「山田尚子は高畑勲の後継者だ」みたいな意見だ。
確かに、繊細な日常芝居などをみると、高畑イズムを継承しているようにも見えるが
どちらかというと、彼女のルーツは、小津安二郎とか、その辺りにある気がする。


・余談その3

希美が冒頭で羽を拾い、ちょくちょく窓の外を飛び回っている「青い鳥」は、おそらく「オオルリ」であろう。この鳥は渡り鳥でなので、冬には居なくなる。
そういえば、絵本パートの中で「もうじき冬が来るわ。リズはどこに行くの?」という、青い鳥の少女のセリフがあった。
ここから察するに、青い鳥の少女も渡り鳥であり、もしリズが彼女を放たず、籠の中に閉じ込めてしまっていたら、冬を越せなかったのだろう。
作中において「リズと青い鳥」は童話として読み継がれていることになっている。
そして童話というものには、なんらかの教訓が込められているのが常である。
それを踏まえて気になるのが、希美が読んでいたリズと青い鳥は絵本で、みぞれが読んだものは文庫本である点。
想像するに、みぞれが読んだものの方が、より、原書に近く、教訓めいた内容が書かれていたのかも知れない。
いったい、童話「リズと青い鳥」の原書には、何が書かれていたのか?大いに気になるので、武田先生、よろしくお願いしますw


・余談その4

「味ついてておいしいです」と、梨々花が希美に差し出すゆで卵。
この作品にあって、貴重な癒しでありコミカルなシーンだが、含まれてる暗喩に気付くと、緩んでられなくなった。
希美が手にするのはゆで卵。つまり「死んだ卵」であって、どれだけ大事に温めようとも、そこからは雛鳥は産まれてこない。
ただ、腐って行くだけ。
なんという辛辣な表現だろうか。つらい・・・


・余談その5

のぞみぞれ=律澪説。
「才能の有無」という視点で見ると、希美とみぞれの関係は、氷菓における、河内先輩(ナコルル先輩)と、転校して行った安城春菜(「夕べには骸に」の原作者)に近いと思っていたが、
視点を転じて「コミュ力の有無」に着目すると「持つ者」「持たざる者」の立場は逆転する。
その視点では、希美は田井中律に、みぞれは秋山澪に近い存在ということになる。
あの2人は、互いに相手が持つものを羨んだり妬んだりしない。
羨望や嫉妬を捨て去れたとき、2人の関係は、律と澪のように理想的な姿へと昇華されるのではなかろうか?
その可能性を信じてみたい気分でもある。


・余談その6

「flute,girls」
なんとも朗らかで気の抜けた会話を披露してくれるフルートパートの面々。
正直、あの会話部分は聞き流してた箇所だったが、今更ながら気づいたことがあったので追記。
生物研の男の子に言い寄られて水族館デートに行ったメガネちゃん。
「ふぐに似てて可愛い」と言われたことにショックを受けたってくだりに、実は「相手に好かれたとて、自分が好きになって欲しい部分を好きになってくれるとは限らない」という示唆が含まれている。
・・・なんという隙のない脚本だろうか。吉田玲子おそるべし。
ついでに、フルートパートにいる、カーディガンを着た三つ編みおさげちゃんだが、この娘、なんかずっと希美ばっか見つめてるような・・・?

投稿 : 2018/06/02
閲覧 : 318
サンキュー:

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