じぇりー さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「暗殺」という名の、意外と隙のない高等教育法。
冒頭数話見てまず感じたのは、「なるほど、これはアニメにすると映える作品だわ」ということだ。
分かりやすくロボットものだとか、ファンタジーバトルものといった、むしろアニメにしないと世界観が分かり辛い作品という訳ではない、のにだ。
メインキャラである「殺せんせー」の、マッハ20の高速移動・ニュルニュル動く触手・コロコロ変わる顔色や体の造形等、おそらく原作漫画ファンの方が見ても納得の映像化だったのではないだろうか。
原作未読、実写映画も未視聴の私にとっては、多少この「殺せんせー」のキャラデザを見たことがある程度の認識で、視聴を始めた本アニメ。
「暗殺教室」なる物騒なタイトルに、ありとあらゆるネガティブな先入観を勝手に抱いていたが、部分的に的中しつつも、大部分で良い方向に予想を裏切る内容だった。
「来年には地球を破壊する」と予告しつつ、その地球最後の日までを中学校の教師として過ごす超生物「殺せんせー」と、そんな担任教師を「暗殺」することをミッションとして課せられた3-E組の生徒たち。
この「教師と生徒」であり、「ターゲットとアサシン」でもあるという相矛盾した関係性を同時に持つことになった3-E組という、奇妙な教室の中で起こる、実は割と普通で健全な学園生活。
既にこの設定がまず狂っている。なのに、何故か無理矢理な感じもしないし、スッとその設定に入り込めるのは、原作の良さがあってこそだろうが、アニメの構成も実に良くできていると感じる。
というのも2クール作品で、かつ第2期の放送が既に決まっていた作品であるにも関わらず、1クール目のラストを一旦きれいに一区切りつけている点がまず素晴らしいし、それは2クール目ラストも言わずもがなで、根幹的な部分は未解決・不明なままで終わっているにも関わらず、終盤に向けて非常に上手く盛り上がりを見せてスカッと最終回で締めた点は賞賛に値する。
殺せんせーは、実に「教師の鑑」とも言える教育者で、全科目教えることができる高等な頭脳を持つのみに留まらず、生徒一人一人にきちんと向き合い、過ちを犯す生徒や、迷いを抱える生徒の心を開くこともできる、彼らの人格形成にも大きな影響を与えられる存在である。
つまり地球を破壊する予定の人類の最大の敵とも言える生物が、自分が殺すことになるであろう生徒達をまるで金八先生の如く愛して慈しみ、教育することに情熱を注いでいる。狂ってる。
対する生徒も、そんな先生に徐々に心を開きつつも、暗殺の手を緩めるということは一切なく、爽やかな穢れのない笑顔で「殺します」と宣言する。やはり狂ってる(笑)
しかし、そんな生徒たちの先生に向ける「殺意」は、始めこそ莫大な報酬目当ての部分はあったにせよ、決して地球のピンチを救おうという使命感からではなく、むしろ暗殺を成功させることで、殺せんせーとの関係性を成り立たせようとしている節さえある。
この点が、「暗殺教室」という作品の最もユニークなエッセンスになっており、子供たちが「暗殺」を通して心技体を鍛え上げるのはもちろんの事、勉学にも勤しみ、クラスメイト同士の結束も固くなっていく様子は、実に青春している。
まるで殺せんせーは、自分への「暗殺」を通じて、生徒たちに生きることそのもののノウハウを自然と身につけさせているようにさえ見えるのだ。
16話は、私が思う神回である。このエピソードに、おそらく本作の隠された「軸」とも思える、非常に心に刺さった殺せんせーの台詞がある:
{netabare} 「テストは良い。一夜漬けで得た知識など、大人になったら忘れてしまうだろう。同じルールの中で力を磨き、結果を競う。その結果から得る経験こそ宝物だ。」
「テストとは勝敗の意味を… 強弱の意味を正しく教えるチャンスなのです。成功と挫折を胸いっぱいに吸い込みなさい、生徒たちよ!」{/netabare}
先生という職に就く者に限らず、大人になれば自然と誰もが気付くのである。{netabare}中学高校で学んだことなど社会に出たら殆ど役に立たない―と。{/netabare}
しかし特に親になれば、多くの大人達は子供達に頭ごなしに「勉強をしろ、テストで良い成績を取れ、いい大学に入れ」と机に向かわせる。
勉強することの本当の大切さを説ける大人はそういないし、仮にこの台詞を間違って使おうものなら、むしろ逆効果になってしまう可能性がある。だから大人達は口を閉ざすのだ。
さて、26人の男女が在籍する3-Eの生徒たちだが、どの子も上手くキャラ付けがなされている。
これだけの人数なので、当然目立つ生徒と、部分的にだけフィーチャーされる生徒がいて、流石に2クール通しても全員の名前と顔を一致させることはできなかったが、「ああ、この子は○○の得意な子」程度の認識は個々に持つことができた。
殺せんせー以外の先生やサブキャラクターたちも、いいキャラしているし、よく練られた人物設定だと思う。
キャラに関してさらに言えば、終盤に向かうにつれ、殺せんせーの影が徐々に薄まり、生徒達主体のストーリーにシフトして行ったな、という印象がある。
これは、ともすれば「主人公空気」なんて言われてしまいそうな現象だが、本作品を子供たちの成長の物語として捉えると、実は至極全うな流れのような気がするし、むしろこの方が良かったと思う。
それにしても、ラストが近付くにつれ一層存在感を増してくる生徒がいるのだが…何というかもう、この子がしゃべる度にとある雑念が脳裏をかすめた:
ジャイアン、まじジャイアン。
…良いお年をー!!