岬ヶ丘 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
上質な時間と溢れ出る熱量
原作未読。雲田はるこによる『ITAN』の漫画。第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞・第38回講談社漫画賞一般部門受賞・第21回手塚治虫文化賞新生賞作。アニメーション制作はスタジオディーン。
作品を見る前と見た後に「ふぅー」と思わずため息が出る。落語を一席見た後思わず手を叩いている。一話からそんな風にしっかりと心を掴まれた。前々から知っていた作品だったが、なぜこれまで見てこなかったんだろうという後悔の念と、それでも今見れたという喜びでなぜか嬉しくもある。
「昭和最後の名人」と謳われる落語家・有楽亭八雲の過去回想を中心に、落語を通して人間の一生を、魅力的で情感溢れる描写で丁寧に描く。落語という因果な宿命に巻き込まれた八雲(菊比古)の視点から、兄弟子でお調子者の天才落語家・助六、菊比古に想いを寄せるみよ吉、二人の娘であり後に八雲が引き取り育てることになる小夏。様々な人間模様が多様な感情を帯びながら、ときに織り乱れときに織り合わさり、そして掛け違えていく。時代や人の流れに翻弄される落語界において、八雲とその周囲の人々の一生を落語を印象的に活かした物語や演出で魅力的に訴えかけている。
全体を通して物語・キャラクター・演出・声優の芝居・音楽全ての要素の完成度が高く、作り手の思いが込められた非常に精緻な作品。心臓が動いて、血が流れ、呼吸をしている感覚は、まさに「生きている」作品だと思う。原作の素晴らしさや、作り手の情熱や伝わってくる一作だった。
素晴らしい点は多々あるが、やはり一番は落語のシーン。物語やキャラクターの心理と重なる演目、そして声優さんの熟練の声のお芝居やカメラワーク・音楽。落語を知らない人でもわかりやすく描かれており、なによりすぐに魅了される。まさに「落語」というタイトルにふさわしい内容になっており、声優さんの演技の妙、声優とは何ぞやという陣髄を見せつけられた気がする。
第一話を経て最終話で時代は現代に戻り、改めて与太郎の存在が非常に面白い立場にあることが分かる。八雲の語った自身と落語の過去を与太郎が現在、そして未来にどう繋げていくのか非常に楽しみな終わり方だった。
最近のアニメにあまり見かけない大人のアニメで、この作品をきっかけに落語に興味を持つ人も多くいるのではないか。かく言う私もその一人だ。
視聴日 17/12/28