101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
重層的な描写の先に響く音楽が心を震わせる傑作
もつれた状況を音楽で……。
痛快で好まれる筋書きではありますが、
時に少々理想的すぎて、如何にもマンガチックな軽い展開にも思われます。
けれど本作の蒼穹に響く鮮烈なトランペット。
“空の音”(={netabare}アメイジング・グレイス{/netabare})には
受け継がれて来た多くの想いが詰まった故の重みがあります。
“戦後”から戦争を描くプロット上で、描かれる登場人物たちは、
心中に戦争のトラウマを、幾重にもくるんで秘匿して日常を生きています。
主人公の女性兵士たちが赴任している砦の街もまた、
忌まわしき災厄の記憶を、祭りの伝統で、包み込み、痛みを和らげています。
そして、ゆっくりと、しかし、着実に終わりに向かっていく世界……。
時折、埋没した地下や、遺構から、顔を覗かせる滅び去った“旧時代”。
例えば、もはや満足に識字できる者も稀少になった、
“旧時代”の言語“イデア文字”(={netabare}日本の漢字と思われる{/netabare})
残滓となっても尚、人々の間に生き続ける伝統行事。
技術や記録も根こそぎ消し飛ばされるような滅びをも乗り越えて、
心に残り続ける物は何か?
本作の音楽には、この問いに耐えうる生命力が漲り、
時代を超越するメロディが登場人物と視聴者。心と心を結びつけた時……。
奥底から沸き起こるような感動が溢れて来るのです。
人、街、世界、歴史……幾つもの重層を通り抜けて、力強い音が駆け抜けるその傍らで、
人々や世界の本性は暴かれ、曝された古傷は目を背けたくなるくらい痛々しい。
それでも物語は優しさに溢れ、音楽は傷を癒やしていく。
未見の方には、是非、一度観て欲しい。
何より“空の音”は心で聴いて欲しい名曲です。