岬ヶ丘 さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.5
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
心までは機械にしてくれなかった・・・
原作未読。冴えない中年サラリーマン・犬屋敷と今どきの高校生・獅子神は、突然の宇宙人の来訪により、全身機械の超人に生まれ変わる。もうどこから突っ込んでいいのかわからないほど、あまりにも突飛な世界観。犬屋敷の機械化した姿やそのリアクションも非常にシュールで、その笑っていいのかダメなのかという絶妙のバランス感覚は唯一無二の作品だと思う。
機械になってしまった二人の行動を軸に、二人の周囲の人々、世間一般の声も取り入れながら、人間の本質・善悪・愛とは何かについて独創的に描いている。人を簡単に殺すこともできれば、末期のがんから人を救うこともできる。そのあまりの生殺与奪の設定には衝撃を受けた。
犬屋敷を犬屋敷たらしめるのは機械化して手に入れた超人的な能力ではなく、機械化する前の彼の生き方や信念によるものであるという描き方は興味深かった。機械化しても他のヒーロー作品とは違い、どこか頼りなくオドオドしながらもなんとか困っている人を助けたいと奮闘する彼の姿はときにシュールであり、これまでにないヒーロー像だった。
一方獅子神も自分に関係する人間には愛情があり、親友やしおんのことは心の底から大切に思っている。自分に関係する人間以外はどうなってもいい、という獅子神の心理は多かれ少なかれ人がもつ固有の感覚であるように感じ、彼の行いは許されないとしても彼の生き方に人間の本質を垣間見る部分はあった。
人を助けることに生を見出す犬屋敷と、人を殺すことに生を見出す獅子神は一見対比の関係にあるようで、表裏一体という印象も受ける。両者ともその根底にあるのは純粋な心であり、体が機械化したことで彼らの心の在りようが強く浮き彫りになっていく。突飛な設定や機械化の外見の衝撃が非常に強いが、人間の心を描くいうのが作品の大きなテーマだったように思う。
また印象的だったのは二人が機械化したことで起こった一連の事件に対する、世間の反応や声。自分とは全く無関係のこととして興味本意で噂話にする者、無責任な声をネットに匿名で書き込む者、どれだけ日常が危機に陥っても学校や仕事に従事する者。その他警察やメディアと反応など多くの人々が印象的に描かれており、サブタイトルに個人名やあるくくりの人々をもってくる発想は新鮮だった。世間というものは良くも悪くも無責任であり、私自身もその一人なのだなということを改めて痛感した。
終盤の展開に関しては隕石落下という伏線はあったものの、最終的に二人が自爆し地球を守るという展開はやや単調か。また全体的に物語の筋が甘い、展開が急すぎる、都合がよすぎる・悪すぎるといった点は否定できない。ただまるで子どものような純粋無垢な視点で世の中を切り取り、思ったことや考えたことを素直にそのまま表現してみました、という純度の高い作品だと評価したい。非常にシンプルで純粋で、そのままで、シュールでもあり、突っ込みどころ満載であり・・・。その独特の感性に触れられたことは興味深い体験だった。