岬ヶ丘 さんの感想・評価
3.2
物語 : 3.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
アンドロイドはアンドロイドをアンドロイドして認識できるか?
アンドロイドが広く普及し、人間がアンドロイドを道具のように扱っている未来。「人間とロボットを区別しない」奇妙なルールを掲げる「イブの時間」という喫茶店が物語の舞台。この喫茶店では人間とアンドロイドがいわば覆面を被っているように、外見や発言だけでは簡単に両者の区別がつかない。
本作に登場するアンドロイドは人間の定めたロボット3原則に従いながらも、人間のために嘘をついたり、隠し事をしたり、人間の求めるアンドロイドの役割をあえて演じている者がいる。彼らは豊かな思考と行動バリエーションを持ち、なにより人間をより理解したいと願っている。
その中でも最も印象的だったのは、コージとリナのカップル。一見男性のコージが人間で、女性型アンドロイドのリナに入れ込んでいるように見えるが、その正体は実は両方ともアンドロイド。しかも互いが互いのことを人間だと勘違いしているのが興味深い。彼らがいつも一緒にいるのは共に違う理由からであり、それぞれが秘密や事情を抱えている。関係そのものは男女の修羅場や三角関係とも捉えられるが、そこにどこか微笑ましさを感じるのは、彼らが実に人間的な心の機微を備えているから。アンドロイドが人間を大切に思っていること、アンドロイドは他のアンドロイドをそれとして認識できない、という条件が重なって起きているこの奇妙な関係にどこかほっこりしてしまう。
この世界のアンドロイドは外見こそ人間と遜色ないものの、まだまだ不完全な存在であり、それ故に人間(オーナー)との間に気持ちのすれ違いや誤解も生じてしまう。しかしそれは人間も同じこと。人間とアンドロイドが心を通じ合わせようとすることで見えてくる新しい発見が、主人公のアンドロイドへの認識を改め、自身の成長にも繋がっていく。アンドロイドが日常に溶け込んでいる風景をごく自然に描写することで、あまり押しつけがましくない独特のリアル感を生んでいる。
話はそれるが、人間がロボット・AI問題を語るときに起点になるのは、基本的に人間側。ロボット・AI視点で議論されることはまずない。それは「イブの時間」と同様に人間が彼らよりも優位の関係にあるという認識ゆえではないか。人間にとって彼らがいかに利となり害にならない存在になるかが議論の的であるように感じられる。今はAIの登場を不安視するような話題も多く、AIとの共存という話はまだまだ現実的ではない部分も感じる。
理由の一つには「イブの時間」同様に今の社会ではAIに人権や人格のような概念が、認識されていないからではないか。しかし本作は人間対アンドロイドという単純な上下関係ではなく、両者の関係や立場を視点を切り替えて見せることで、人間とアンドロイドとの関係性について色々な角度から見える気づきを視聴者に示している。この作品が訴えかけているのは、人間・ロボット問題を考えるときの視点の切り替えの重要性だと思う。
人間がアンドロイドの声に耳を傾け理解しようとすることで、本当の意味での人間とアンドロイドが共生する未来が訪れるかもしれない、そんなほのかに明るいメッセージが本作に込められている気がしてならない。