101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ライトノベル『キノの旅』の再アニメ化作品
原作小説は21巻まで購読。
旅を通じて、様々な価値観をぶつけてくる、
珠玉の短編集である原作を読んでいて、
私は、ふと、『キノの旅』はライトノベルなのだろうか?と思うことがあります。
自分の中で時雨沢恵一氏は星新一氏や筒井康隆氏らと比肩する短編、ショートショートの名手。
『キノの旅』もラノベの範疇に収まらない文学なのでは?
と興奮で勝手に舞い上がる瞬間も多々ありますw
そんな私にとって、キャストに“ちゃんとした声優”を起用し、
旧アニメシリーズよりキャラクターアニメとしての性格が強まった。
よりラノベ原作アニメとしての志向が強まった本作は、
当初、期待していたものとは違っていたはず。
特に旧作、新作共にアニメ化されたエピソードである
第二話「コロシアム」を比較すると違いが顕著だったと思います。
{netabare}旧作では件の国が狂気の見世物を催すに至った歴史など、
風土と住民の描写を選択して映像化したのに対し、
本作ではキノとシズの関係性に着目し、
第四話「船の国」での“再戦”に向けた伏線も張るような、
メインキャラクター同士の絡みを重視した映像化となっていたと思います。{/netabare}
けれど、それでも私はこのアニメ化作品も満喫できました。
キノ&エルメス主役回だけでなく、旧作にはなかった、
シズ回やティー回やフォト回でキャラクターが表現されていたのが、
やっぱり嬉しかったのだと思います。師匠の大暴れ回も目撃することができ感無量ですw
小説読んでいる時は、自分はあくまで物語を堪能しているんだ。と気取りつつも、
新たなキャラ属性の発掘や、キャラ同士の関係性などに時めいてみたり……。
結局、私は『キノの旅』をライトノベルとしても、
しっかり楽しんでいたと確認できた再アニメ化企画でした。
シリーズ構成についても旧作はアニメスタッフらが原作から見出した、
物語性を表現しようという意識が強く、
エピソードの配置にも、1クール全体を通じてメッセージを届けようという工夫が感じられました。
例えば、{netabare}序盤にキノが旅をする動機やきっかけを描き、
キノが“狂言回し”として我々とは異なる各国の生活、文化を掘り起こす旅人のスタイルを確立。
その上で終盤にかけては、異国の事情に深入りしない、思い入れない。
常に中立を保とうとするキノを揺さぶるような惨劇、悲劇のエピソードを選択。
キノの恐れや動揺の表情の強調という“原作改変”すらも行われ、
旅人という生き方の限界をも意識させる全体構成の流れがあったと思います。{/netabare}
対して本作では、制作に深く関与した原作者らスタッフ一同による、
『キノ~』ファンへの恩返しとしての色彩が強いと感じました。
まずキノ以外のエピソード主役キャラを総出演させるという前提があり、
ファンへのアンケートで上位に入ったエピソードを優先的に選択する企画もありました。
これらの恩返し要素は、物語性を前面に押し出す上では制約にもなり得ますが、
これもファンを楽しませるための試みとしてはありだったと思います。
キャスト陣の演技も安定。
旧作のキノ役・前田愛さんには演じずして人物を表現する
“天然”キノとしての人間味がありましたが、
スキル不足により声を当て損なう懸念も常にありました。
その点、本作のキノ役・悠木碧さんは磨き上げた演技により人物に肉薄する
“養殖”キノながら、声を外さない安心感がありました。
受け手を疑心暗鬼にさせるのも『キノの旅』の魅力だと私は思っていますが、
“ちゃんとした声優”の演技は心地よすぎて、つい警戒を怠りそうになってしまいますw
そんな中、何が飛び出すか分らない『キノの旅』の醍醐味を堪能できた回は第九話「いろいろな国」
アニメ化すると一話にも満たない、ショートショートを次々に繰り出す、目まぐるしい回。
ついでに、{netabare} 原作者悲願の“あとがき”のアニメ化まで実現するという感動?のエンディング(笑){/netabare}
原作者自身はこれまで露骨に“あとがき”アニメ化の野望を口にして来たわけですがw
時雨沢恵一氏はどちらかと言うとアニメの脚本みたいなライトノベルは書かない作家さんという印象。
『キノの旅』の各話文量にしても、最短1ページから最長100ページに及ぶなど、
テレビアニメ化した際のスタッフの都合など完全に無視した配分でして(苦笑)
そんならしさが存分に感じられたのが九話だったと思います。
個人的には、次、『キノの旅』がアニメ化する時は、
TVアニメではなくネット配信アニメやOVA、劇場版など、
尺の制約が緩い枠組みで、どこで話が終わるか分らないドキドキを感じながら……。
というのもスリリングで面白いかも?という願望も私は抱いています。