蒼い✨️ さんの感想・評価
3.4
物語 : 3.0
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
世相や価値観で納得できるか変化しそうなアニメ。
アニメーション制作:タツノコプロ
1993年1月25日 - 7月19日に放映された全26話のTVアニメ。
原作は、吉岡平によるライトノベル『宇宙一の無責任男』シリーズ。
監督は、真下耕一。
【概要/あらすじ】
遠い遠い未来の話。宇宙暦6999年。
地球人による惑星連合宇宙軍は、惑星ラアルゴンを母星とする神聖ラアルゴン帝国との戦争状態にあった。
人材不足に悩む惑星連合宇宙軍に、ひとりの若者が入隊する。
ジャスティ・ウエキ・タイラー。二十歳。この男はタダモノでは無い。
軍隊への志願理由というのが福利厚生の充実で生活費の心配もなく、各種免許や資格の獲得に便利。
要は適当よろしく税金で養われたいということで、戦争に対して緊迫感の欠片もない。
そんな男が二等兵として軍の年金課に配属されるやいなや、
名将として知られた退役軍人であり今や寝たきり老人となってるハナー元提督に対して手違いで未払いになってる、
年金を届けに行った先の元提督のボロ家で人質目的で押し入った武装したラアルゴン人のテロリストと鉢合わせ。
その現場をヨイショとラッキーで解決してしまう。この功績で少佐に昇進。駆逐艦そよかぜの艦長に任命される。
その、「そよかぜ」というのが志願者を除き大凡に組織人としての適性に欠ける、
問題児だらけの掃き溜めのようなボロ舟である。艦内では意志がバラバラで諍いが耐えない。
要は環境の酷さにギブアップしてタイラーが自分から軍を去るように仕向けられた人事なのである。
しかし、タイラーという男は宥めるでも諭すでもなく放任していくうちにラッキーでなんとかなっていき、
なるようになるさ!のなんとなくで、タイラーは敵を倒そうとか思ってないのに戦果を次々をあげていく。
それは理解不能な存在として上役からの反発を招き、一方でタイラーの名は敵国であるラアルゴン皇帝の耳に届く。
これは、ひとりの男の無責任さが人の心を動かし歴史を作っていく物語なのかもしれない。
【感想】
宇宙戦争モノと言っても作者のやりたいことには個人差が大きく、
ガンダムやマクロスでも違いが大きいし、銀河英雄伝説は宇宙で三国志的な何かになってる。
その点、このタイラーも変わっていると言えば変わっている。
このアニメは93年であるが、昭和50年代(75-84年)のアニメの影響が大きく反映されている。
ヤマト的な何か、うる星やつら的な何か、北斗の拳的な何か。
要はスタートレックとかを読んでいる作者によるライトなスペースオペラ原作に、
80年代近辺のアニメオタクの好物をトッピングしてアニメ化したようなものが、この作品なのである。
さて、この作品は、宇宙戦争を背景に軍事のイロハも知らない若造が、
『戦争なんて真面目にやるもんじゃないよ!』
と、能天気さと豪運で勝ち上がっていくというストーリーではあるが、
原作ではアクが強い性格でオールバックで平べったいオジサン顔のタイラーが、
飄々と掴みどころのないニ十歳の青年にキャラが美化されているなど、
原作からのアレンジが多くて別物となってる模様。
自分は原作を読んでいませんが、原作ファンは不満らしい。作者は順応したが。
原作小説の発表期間は、1989年1月 - 1996年1月。
作者の吉岡平は1960年生まれであり、戦後教育にどっぷりと浸かった世代。
アニメ版では軍事というものに対して否定的なスタンスが多く見られ、
規則とか義務感とかやーね!って感じ。
明日は明日の風が吹く。諸行無常。人殺しにまじになって、どーすんの?
人の一生なんて短いんだから、楽しくやろうよ!
真面目な軍人の思惑を吹き飛ばすがごとくタイラーの不真面目さが最強の武器として実績を積んでいく。
戦争なんて碌でもないものなんて、なんでしちゃうの?
言葉が通じあえば、腹を割って接すればなんとかなるよ!
多分に、こういうものが28年後の今より素直に信じられていた時代の産物。
主人公がとってもラッキーマンの如くにヘラヘラしつつ、
勝つ気が無いのにピタゴラスイッチ的に結果的に勝利を収めるのを楽しむコメディ?
戦争へのアイロニー?ギャグは面白くないしセンスも今の感覚で見ると苦しいかもしれない?
まあ、一応は作品にテーマ性があって一貫しているのは解る。
後半の展開で、このアニメで何をやりたかったのか解ってくるのかもしれない。
カッコイイSF兵器を出したり、戦略や戦術などの軍事面を詳細に突き詰めて真面目に宇宙戦争を描くでもなく、
無責任と気楽さを武器に周りを感化して何となしに戦争を解決に向かわせてしまう。人情劇や精神論が主体。
タイラーという無責任ではあるが、この世の真理の一つに到達しているかもしれない主人公の人格を通じて、
平和主義の理想が作品に込められているのかもしれない。
しかしながら、タイラーと反対の考えを持つ者は良くない存在。
もしくは視野の狭い存在として描かれてるのも事実で作為的なものである。
基本的にはコメディ仕立てであるが、規則や軍隊は人間の心を縛るものとして否定的に扱われている。
タイラーに同調できる者や影響を受ける者こそ作品内では好意的な扱いなのだ。
人間の自由さ・おおらかさに対する賛歌が作品の根底にある。
『(異星人でも)同じ人間!話せば分かる!』
しかしながら、現実世界ではアニメの世界より人情が薄いことも多く、
人に対する好き嫌いで簡単に態度を変えるは、差別意識や悪意で他人に接する人間がいたりして、
同じ言語を用いていようと思考のロジックが違いすぎて会話や交渉が成立しない輩が普通にいる。
工作員を送り込んでくる隣国相手に話し合いでの解決という綺麗事を三三九度に主張する者が、
同国人で主義主張の異なる相手を不倶戴天の敵として蹴落とそうと、
手段を選ばず工作をしかけて流言飛語をばら撒いたりする。
利害や思想の違いを乗り越えて手を組むのは困難な道程であり、対立の中で綺麗事は通用しない。
権力=体制=悪という図式がフィクション世界での黄金パターンではあるが、
反権力革命運動の胡散臭さも今では周知の事実である。
権力に立ち向かうものが必ずしも正しいとは限らないのが現実なのである。
現実の国際社会では譲り合いの精神を発揮しようものならイナゴのように食い荒らされるし、
ミサイルを向けて来る相手に話し合いでも持ち込もう物なら敵の力に屈したと見られるのが当然。
まさに「鴨が葱を背負って来る」としか思われないのである。
民間人でも丸腰で中東の紛争国に行って人質にされ身代金を要求された挙句に殺害される。
なんでも、開き直って堂々としていれば、相手が解ってくれるという「忖度」の精神は夢物語。
「サラリーマン金太郎」が大ヒットしたように非常に日本人好みの展開ではあるのだが。
このアニメでは交戦相手である異星人のトップが、
精神的にやや幼いものの分別のある善人な少女であったのがラッキーだった。
ただそれだけの話であり、理想で塗り固められた・こうだったらいいな!
日本人特有の美徳が民族や人種を超えた人類の共通認識であるという世界設定の上で成立している、
ファンタジーな戦争なのである。
そもそもが、このアニメでは何故戦争をしてるかも意味不明であるし、
あっさり解り合えるのなら、この戦争とは何なのか?というオチになる。
(原作ではラアルゴン人のルーツや母星の状況などがあって、目的があって太陽系に来たことが明示されているらしいが)
だが、それでいいのかもしれない。
残酷な現実を模倣するだけがフィクションの世界ではないのだから。
タイラーは敵だけでなく味方であるはずの連合宇宙軍にも生命を狙われるものの、精神論で解決するどこか温い戦争。
理想家に都合の良い夢でも見せて気持ちいいものを提供する。これもフィクションの一つの形なのである。
・周囲を蹴落としてまで利益を得ようとする者がいれば、タイラーの強運の前に墓穴を掘る。
・おべんちゃらは言うが決して人の悪口を言わないタイラーの魅力?
ちょっと変わった勧善懲悪的な作風?
人間、悪いことをするもんじゃないよ!みたいな?
ファンが、この作品を好む部分はこういうところなのか?
視聴者がジャスティ・ウエキ・タイラーという男を理解して好きになれるかどうか?
キャラの情にほだされ、居心地の良さをこのアニメに感じられるかどうかで大幅に評価が変わってくる作品だと思った。
ちなみには私は最終回まで視聴終えたところ、途中で何度か作品を見直しかけたのだが、
正式な手順を踏まえずあんなオチにして自由さと身勝手を履き違えてない?ということで、やや減点気味にした。
(アニメ的な表現の一環であるというのは、解らないでもないが)
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。