101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
聖夜の東京砂漠にて子宝を拾う
本作の元となった年末ファミリー向け西部劇『三人の名付親』(1948年・米)は鑑賞済。
埃っぽいホワイトクリスマスの夜。新宿でホームレスやってるおっさん&オカマ、家出少女が
ゴミ捨て場で赤ん坊を拾ったことで、
胸にしまい込んでいた家族や友人との思い出や絆が蘇って来るハートフルストーリー……。
……に、持って行きたい所ですが、一筋縄ではいかないのが、
鬼才・今敏監督が描く現代の魔都・東京の世知辛さw
元ネタ西部劇にて、拾った赤子と共に、荒野のへっぽこアウトロー三人組を導いた聖書や唯一神。
偉大なる主も今敏ワールドの日本においては、
無宗教のホームレスが教会のクリスマス慈善配食にありつく前に聞かざるを得ない、
退屈な神父の長話、説教として、早々にキックされますw
では、せめて子は宝とするこの国の伝統的価値観にすがりたい所ですが、
福音のごとき赤ん坊の泣き声すらも騒音とみなす、この国の首都は難攻不落。
さらに時に底辺を見下して、少数者を虐げて安心する、荒んだ現代人の視線が突き刺さる……。
師走の東京。風は刺さるように冷たいですw
天使のような赤ん坊の笑顔に触れても固く閉ざされた三人の胸襟は容易に開かれません。
{netabare}赤子と過ごすピュアゾーンに入って尚、
おっさんから虚言や虚勢が飛び出すのには呆れます(笑){/netabare}
懺悔すらも素直にできやしない。現代日本人の闇は深いです(苦笑)
ですが、誰もがそんなに簡単にクリスマスの賛美歌みたいに清らかにはなれないし、
アクション俳優みたいに華麗な立ち回りができるわけでもない。
こうした現代人の心象を率直にスクリーンに展開することで、
クセは強いながらも、多くの凡人に寄り添うことができる物語が実現。
何よりシリアスな描写が多い監督の作品では珍しく、笑えるネタも多いのが嬉しいです。
例えば、{netabare}ホームレス狩りの少年たちに集団暴行され、
路上で傷つき行き倒れそうになったおっさんの元に
現れた天使のコスプレしたニューハーフに
「私の魔法と救急車どっちが好き?」
と問われて「救急車」と即答するネタなどがイチイチ私の鳩尾に食い込みますw{/netabare}
ただユーモアはあくまでブラックなので、抱腹絶倒と言うより
アチャー(ノ∀`)って感じで、痛いやり取りや自虐ネタを覗く種類の笑い。
よって心の傷を嗤われても楽しめる程度の耐性は必要かとは思います。
それでも、何気に私にとって本作は、年越し日本映画の筆頭格。
偶然が多発するご都合主義的な展開も、
クリスマスに巡り会った赤子がもたらした奇跡と納得も可能な構成もお見事。
イケメン、萌え顔とは一線を画した、その辺りにいそうな、
けど、よくよく見ると奇妙な顔をアニメキャラとして昇華させる。
独特な人物デザインも完成度を増しています。
作品を重ねた監督の円熟味も感じることができる自分の中では極上エンターテイメント。
サンタクロースなんて信じないw不純な大人にこそオススメしたい作品です。
一方、エンディングもかなり灰汁が強いので注意w
要するに、{netabare}第九を改変した、おっさんによる飲んだくれ替え歌ソングなのですが、{/netabare}
何度聴いても酷すぎて酔いが回ります(笑)
まぁ、悪酒飲んで、ほろ酔い気分で年を越すのも私は嫌いじゃありませんがw