じぇりー さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
極上のクォリティーでお届けする超ロング回想譚
まずは自分のあにこれの棚を見返してみる。…やはりない。
何がないのかというと、この作品を上回る程の「声優の技量」に舌を巻いた作品が、他に無いということである。
演技力は言わずもがな、とにかく驚くのはプロの咄家と遜色のない落語シーンをやってのける石田さん、山寺さん、関さん…すごいの一言に尽きる。
私はすっかり石田さんの艶っぽい噺ぶりに魅了された。色気が半端ない。ついでに言えば、落語をしていない時の菊比古さん(CV:石田さん)の上品な江戸っ子口調は、大好きだった今は亡き私の祖母を彷彿とさせてくれて、ホロリ。
特に感嘆したのは、未熟な時分の自信のない下手な落語のシーン。これは落語家ではなく、声優だからこそできる芸当だと思うと、これぞ一流の声優の匠の技なのだなと感じ入った次第である。
本作品の最大の見所となるこの「落語」シーン、まずは前述の声優によるガチ落語が大抵1話につき1回はマルっと組み込まれているだけでも素晴らしい上に、度々落語の題目がストーリーとオーバーラップしている点がにくい。
菊比古と助六、性格も芸のスタイルも正反対の2人が、戦前・戦中・戦後の激動の時代に翻弄されながらも、己の芸の在り方を模索する中で生まれる友情と嫉妬―
同門の兄弟であり、唯一無二の親友であり、ライバルでもあるこの2人の「男として」「落語家として」の両面の生き様が非常に繊細に描かれているストーリーも秀逸。
1話で主人公かと思われた与太郎が、実はストーリーを掘り起こす切っ掛けとなる存在に過ぎず、与太郎の師匠である八雲の回想でほぼ1クールを費やしている。
ということは、先に未来が描かれた状態で回想に入るので、ある程度結末が分かった上で、八雲の過去話を見ることになる。
つまり、その回想に登場する人物がどうなるのか既にほぼネタバレしている状態で、いわばなぜそうなったのかのプロセスを割と淡々と見せてくるのだが、これが何というか「高級な昼ドラ」を見ているような感覚だ。
ありふれた男同士の熱い友情ものではない、愛憎入り乱れる関係性にさらに深い影を落としてくる女の存在。まさに大人向けのアニメだ。高ポイント。
どこか艶めいていて退廃的・悲劇的な本作に、「ジャズ」というBGMはズルい程マッチしている。高ポイント。
さらに、特に落語シーンでの人物描写の細かさや、戦争前後の昭和時代の街並みなどの背景に至っても美しい作画。高ポイント。
個人的には次回予告が毎回同じセリフなのに、ストーリーに合わせて石田さんが言い方を変えている点も高ポイント要素の一つである。
時代背景を上手く反映させたドラマ性の高いストーリー、登場人物同士の複雑かつ繊細な関係性、情念と懐古に満ちた音楽、丁寧かつ美しい作画、化け物かと思えるくらい芸達者な声優陣…久しぶりに上質なアニメを見た気分だ。
最近クレーマー的レビューが多かった私だが、褒める時は褒めます。この作品は、ケチのつけようがござんせん!
さあ、2期を見るぞ!