TAKARU1996 さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
全てを、赦されたような気がした。
2018年6月5日 記載
忘れられないシーンと言うのは、アニメを観ていく以上、多々生まれるモノです。
その時の想いは、アニメーションに触れている以上、少なからず生じる感慨です。
数多く見ていく内、少なからず生まれる感情、別に珍しい事ではありません。
自分にとっての「それ」が形成された時点で、これまでの自分と全く異なった人間へと変貌する。
それは悲しい事でもありますが、大事にしないといけない物だと思います。
絶対に、無くしてはいけないのです。
『ブラック・ブレット』
ライトノベル原作から成る本作は、正直に申せば、もう全てが素晴らしいと大絶賛する大傑作……と言う訳ではありません。
基準値以上には間違いなく楽しめる作品ですが、カットは多いし、最後も結局の所、戦いは続くと言う消化不良な幕引き
不満を覚える方も多い事でしょう。
しかし、私は本作を評価したい。
過程も純粋に楽しく観れ、尚且つ、最後の最後で素晴らしい帰着を生み出したこの作品を、私は高評価で持って迎えたい。
高い評価の理由は以下より宜しく。
ここからはネタバレなので御注意を……
{netabare}
本作における最終回と言うのは、多くの本質が明るみになった回であります。
ガストレアとの戦いで分かるそれぞれの仲間達の思い
お茶目に蓮太郎や延珠と話し、過ごし、笑ってた木更さんの闇
そして、高評価に至った理由は、最終話終盤、最後の本質が分かってしまう場面にあるのです。
ガストレアとの戦いが一段落して、聖天子様のお祝いに電車で向かう道中の事
「せーやく書」の話題で会話が横行している最中に電車が止まる。
どうやら人身事故が発生したとの事
「こりゃ遅刻だな」とぼやく蓮太郎
しかし延珠は、そのアナウンスに次の言葉で返すのです。
「…痛かったかな」
「辛かったのかな」
「わらわたちが何かしてあげられる事ってなかったのかな」
それを聞いて涙を流す蓮太郎
延珠はそんな彼を優しく、聖母の慈愛が如く、抱きしめるのでした。
そもそも、『ブラック・ブレット』と言う作品は、人間を怪物化する寄生生物「ガストレア」への対抗策に生まれた少女「イニシエーター」と彼女達を指導する「プロモーター」の物語でした。
バトルファンタジーと言えば聞こえは良いですが、特筆すべきはマジでその世界観に容赦がない所
この作品、一片の慈悲もなく、多くの人や仲間達が死にます。
そんな彼等が死ぬまでの過程描写と言うのは雑な箇所もあるんですが、それがまた凄くリアルさを感じさせるんです。
死ぬまでに何か劇的な事が現実で起こる訳は無いし、人と言うのは実にあっけなくおっちんでしまう。
悲しき哉、それが人生
だからこそ、そういったシーンのあっさり感が全話視聴後、逆に恐ろしくなりました。
人間がここまで弱い存在である事を全面に出したラノベアニメって、実は結構少ないのです。
そして、だからこそ私は思います。
初見でこのシーンを観て、真の意味で衝撃を受けた方は、果たしてどれ位いるのか、不思議に思います。
少なくとも、私は衝撃を受けました。
これは第1話から最後まで観ないと分からない感覚なのは確か
いや、最初から観ても分からなかった人も、もしかすればいるかもしれません。
結論を述べます。
私も彼と同じだったと言う事に気づきました。
そう、「死」に慣れていたんです。
あまりにもあっさりだったからこそ、慣れてしまっていたんです、人の死に。
この全12話の間に、自分の汚い本性、本質が見事、垣間見えてしまいました。
「次はこの娘が死にそうだな」
「ああ、やっぱり、予想通りだったな」
「あれ、こいつが死ぬのか、なんか意外だったな」
自分が怖くなりました。
「次は誰が死ぬのかな」なんて、簡単に考えていました。
蓮太郎と同じく、誰かが死ぬと言う感覚に物語上の事とは言え、順応していた……
そんな自分にとって最も皮肉なのが、それを教えてくれた存在がもう余命間近の少女である事
だから、このシーンは名シーン集なんてモノでなぞらえて見せられても、何も気持ちが湧かないんです。
だって、ただ抜粋した事で生じる感慨は、恐らく全話観た人とはまるで違いますから。
名シーンと呼ばれるモノには2種類あります。
その場面単体だけで評価に値するモノと、全話を観た事で漸くその場面の評価を感じられるモノ
このシーンは、断然後者
しかも、それがありきたりな、現代日本で日常茶飯事な「死」でその実感をさせると言う所に、尚更非情さと残酷さを感じました。
延珠の言葉を聞いて、私も彼と同じく涙を流してしまいました。
自分が怖くなったからでしょう、嫌になったからでしょう、情けなくなったからでしょう。
理由は様々
でも、あの時、彼が抱きしめられた事で、私は少しばかり救われました。
こんな醜悪な本性を持っている私自身、確かに救われました。
傍にある優しさと言うのは斯くも愛おしく、そして守らなければいけない。
そんな決意を再度実感させてくれた、私にとっては忘れられないアニメです。
ありがとう延珠、ありがとう蓮太郎
前にも申し上げた通り、今回の点数は、正直贔屓目の部分も大きいです。
しかし、心に残っている場面を生み出した本作に、悪い点数なんてつけられないでしょう。
今でも、人身事故のアナウンスを聞く度に、この場面を思い出してしまいます。
その度に、彼女の優しさを絶対忘れたくないと、必ず胸に刻んでいるのです。
数多くが命を絶つ、現代日本、魔のホーム
これまでの死者を数えたならば死屍累々と横たわるであろう、残酷無慈悲なその光景
電車が遅延する度、線路の上で誰かが亡くなったのかもしれない。
そんな事を頭の片隅に思いながら、普通の人々は普通の日常を送り続けている。
どう考えても、まともじゃないでしょう。
でも、本作最終回を観た後、私は大きな悔しさと悲しさと切なさと、そして、赦しを与えられました。
「普通」に対してそのように感じる事
それこそ、絶対に忘れてはいけない、無くしてはいけないと思います。
{/netabare}
P.S.
この作品の監督は『花田少年史』を作り上げ、後に『メイド・イン・アビス』も統括した小島正幸氏
観てみると、実に納得です。
『花田少年史』や『ブラック・ブレッド』で数多くの「死」の描写に携わった方が『メイド・イン・アビス』を蔑ろにする筈が無いんですよね……
人間の尊厳や生き方について思いを馳せてしまったのも、当然の結果かもしれません。