「グラスリップ(TVアニメ動画)」

総合得点
65.8
感想・評価
1166
棚に入れた
5339
ランキング
3181
★★★★☆ 3.2 (1166)
物語
2.6
作画
3.7
声優
3.3
音楽
3.4
キャラ
3.0

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★★ 4.2
物語 : 4.0 作画 : 5.0 声優 : 3.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

青い夏のイノセンス

福井県を舞台に高校3年生の夏休みを描く、ロマンティック&ファンタスティック・ストーリー。
P.A.Works制作2014年の夏オリジナルアニメです。全13話。

成分タグの1位が「よく分からない」。

意味不明の駄作として不遇な扱いを受けている作品ですが僕はかなり高く評価しています。
別に意味が全て分からなくても十分楽しめる遊び心にあふれた青春アニメだと思うのですが
どうも賛同していただけそうもない雰囲気を感じますので、
「グラスリップとは何だったのか」僕なりに解釈したものを文章にしてみます。
別にこれが正解というわけではありませんが作品の捉え方や楽しみ方のひとつとして、
本作を見られたことのある方はお付き合い頂けると幸いです。

+主題+
まず最初に物語の全体のテーマ、一体何を表現したかったものなのかについて。
本作の基本的なコンセプトは同社・同監督が2008年に制作した作品「true tears」とそう変わらないと考えます。
それは「アニメでビルドゥングス・ロマンを創る」ということです。
大人になりきれない少年少女が様々な体験を通じて内面的に成長する姿を描く物語。
テーマ自体は王道かつ古典的です。
それを多彩なレトリックや映像技法でカラフルに表現したのがグラスリップというアニメです。
現実的なものと非現実的なものを共存できるというアニメーションの利点をフルに活かした作品ともいえます。
もっとも止め絵(ハーモニーカット)は多用しすぎてもはやギャグになっているような気がしますが、
明るくコミカルな作風なのでそれはそれで良いと捉えています。

+昼と夜+
グラスリップでは麒麟館という、みくに龍翔館をモデルにした博物館が何度か舞台になります。
麒麟館の最上階には「昼と夜」というエッシャーのだまし絵が展示されていて、
透子たちが訪れるたび意味あり気に映し出されます。
画像検索すれば分かりますが多くの人は見覚えがある絵だと思います。
(余談ですが、みくに龍翔館の原形となる建物をデザインしたエッセル氏はエッシャーの父だそうです。)
そして作中で何回も登場するこの絵にこそ、本作の伝えたいことが詰まっていると思うのです。
「昼と夜」は白い鳥を見れば昼の田園が、黒い鳥を見れば夜の田園が浮かび上がるという不思議な絵です。
昼は希望、夜は不安を表していると考えれば、作品に込められたテーマが浮かび上がってくる。
第7話で「お似合いのカップルね」とやなぎが透子に嫌味を言うと、
未来の欠片で黒い鳥の群れが背後から飛び立つように見える場面がありますが
黒い鳥はネガティブな感情のメタファーだとすればこの演出の意図も掴めてきます。
グラスリップは彼らが黒い鳥ではなく白い鳥を見つめるようになるまで、
つまり不安が希望に変わるまでを描いた物語だと言えるのではないでしょうか。

+未来の欠片+
ストーリー上ずっと展開されてきた「未来の欠片」なるものについて
最終回まで見ても具体的な説明がなく、困惑された方が多かったようです。
「未来の欠片」の意味については諸説ありますが、単純に
青年期に感じる将来への不安、モヤモヤした思い、胸のざわつく感じを
ビジュアル化したものではないかと思います。
「平行世界がうんたらかんたら」といった壮大なSF的解釈もあることにはあるのですが、
僕は正直考えすぎじゃないかなと思うのです。
「未来の欠片」を未来予知能力だと捉え、辻褄を合わせようと考えれば考えるほど
グラスリップは何を伝えたいのか分からない物語になってしまう。
自分がやりたいことはなんだろうといった自己への不安、
他人とうまく付き合えているだろうかという対人不安、そして異性への不安。
「未来の欠片」とはこういった誰しもが経験する青年期特有の感覚を表現するため、
そしてかなり子供っぽい透子と駆の成長を促すための舞台装置であって、
論理的な説明を必要とする類のものではないのだと思います。
最終話で透子のお母さんが紅茶を飲みながら未来の欠片と似たような体験をしたことを告白しつつ、
それは未来ではなかったよと言いますが、これがいわば種明かしなのですね。
どうしても釈然としないものを感じるのであればこのアニメ自体が「合わない」作品なのかもしれません。

+流星群の夜+
特に意味不明と言われるのが最終回、透子と駆が蜻蛉玉ををめいっぱい空に放り投げると流星になるシーンです。
この場面の分かりにくさは駆のキャラクターの掴みにくさに由来しているように思います。
彼はコーヒーをブラックで飲む嗜好や言葉使いからは大人びた印象はあるものの、
それは「大人ぶっている」だけで実は6人の中で一番子供っぽい人物です。
コミニケーション能力に難がある彼は他人とうまく付き合うことができない。
でも真の問題は彼が孤独を受け入れてしまっていることにあります。
実際のところ彼は一人でいることを苦にしていないし、むしろ気楽でいいやくらいに思っている。
だから駆は一般的に疎外感と呼ばれるものを、「唐突な"当たり前"の孤独」と呼んでいるのです。

駆の母親のピアノを聴きながら見た入れ替わりの世界の中で、透子は駆の孤独感を体験します。
透子も子供っぽいキャラですが、駆とは対照的に明るい性格で友達や家族から愛されています。
彼女にとってそれは、とても寂しい光景に見えました。
そして孤独に浸っている駆に、一人じゃない景色の楽しさを伝えたいと思った。
だけども旅に出る決めている駆と来年の花火を見ることはできないし、流星も生憎の曇り空で見えないかもしれない。
そこで透子はアトリエで蜻蛉玉をいっぱい作り、流星の代わりにしようと思ったのです。
何とも子供っぽい思いつきですが、彼女の魅力であるイノセントな心、
そして優しさを最大限に感じられる行動ではないでしょうか。
そんな純粋さも成長と共にいつかは失う物。だからこそ価値があるのです。
実は雲の切れ間から流星群が見えたので、本物を見ることもできました。
でも透子の手作りの流星群の方がずっと素敵で、駆にとって大切な思い出になるのは間違いないでしょう。
ガラス玉の星を見ているのは世界でたった2人しかいない。それこそが「かけがえのない青春」というものです。

+成長物語+
"同じ体験を通じて人と人は分かり合うことができる"
これは本作が一貫して訴えかけているテーマです。
空に向かって2人で蜻蛉玉を投げることだったり、
祐が幸と同じ本を読み、やなぎが雪哉と同じ道を走り、幸が祐と一緒に山を登ることの意味がそこにあります。

グラスリップは6人の男女の成長、そして人間関係の再構築が話のメインです。
異性に対する抵抗を持っていた幸は「友達として好き」からスタートしながら、
祐との関係を少しずつ前進させようとします。
モデル志望のやなぎは自分の外見には自信がありました。
でも恋愛を通じて自身の性格の悪さに気付き、これからは内面も磨いてもっといい女になってやろうと決意する。
「うち、新しい自分になる」という台詞にはその気持ちが込められています。
最終回であれほど嫌っていた駆を遊びに誘う場面でも彼女の成長を感じ取ることができます。

それでも街を出ていった駆が成長できたのかどうかは分かりません。
頑固なところがある彼は結局、母親と共に世界を旅するという決断を変えませんでした。
きっとそう遠くない未来、あの流星群の夜の事を思い出し、
自分が透子に何もしてあげられなかったことを彼は後悔するのだと思う。
でもさらに時間を経て、そんな昔の失敗ですら懐かしい思い出となる。
それが大人になるということなのでしょう。

グラスリップはP.A.Worksらしさに溢れる、ちょっと不思議でとても美しい青春物語です。
世間の評価は芳しくありませんが、決してつまらない作品ではありません。
少しでも見直してくれる方がいてくれたら嬉しく思います。

投稿 : 2017/11/05
閲覧 : 484
サンキュー:

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