ostrich さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 3.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
手堅さの功罪
原作既読。
ていうか、原作を読んでなかったら視聴していないと思う。
原作にかなり忠実で、良くも悪くも手堅い作品ではあった。
必然、本作の良い面は、原作のそれとほぼイコールになってしまうのだが、何といっても、競技かるたというフレッシュな題材を発見し、その題材を料理しつくしたことだろう。
おそらく、競技かるたを扱った後続の作品はしばらくは出てこないと思う。最初に扱った作品(つまり本作)が傑作であることに加えて、競技のすそ野の狭さがそれに拍車をかける。野球やサッカーなどはそれ単体でひとつのジャンルとなりうるすそ野の広さがあるが、競技かるたでは、なかなかそういうわけにはいくまい。
そう考えると本作は最初のチャンスをこれ以上ない形でものにした作品といえる。
本作は一応、少女マンガではあるが、大枠の構造は少年マンガで、「努力・友情・勝利」をほぼそのままやっている。特に原作の序盤に当たる本作はまんまそれだ。ただ、少女マンガらしい面ももちろんあって、たとえば恋愛要素が多めだったりするのだが、私が何より感心したのは、キャラクターで言えば大江奏に代表される「文学としての百人一首」の扱いである。各エピソードと歌の内容のシンクロはとても新鮮だった。
まあ、題材が題材だけにそれを活かす当然の手法と言ってしまうこともできるのだけど、ただ、同じことが少年マンガで出来るかといえば、結構難しい気がする。
本作を観た後で言うのは容易いことだが、そもそも、競技かるたは少女マンガで描かれるべき題材だったということかもしれない。
余談になるが、本作と同じように何らかの競技を描いた少女マンガに「3月のライオン」があり、こちらもアニメ化、実写化されてヒットしている。競技少女マンガは現在の少女マンガ界のトレンドなのかもしれない。
多少、分析的なことを言えば、ひとつにはこのジャンルは男性読者を取り込みやすいということが言えると思う。当然のことながら、男性読者は少年マンガ的な構造にはなじんでいるわけだから。
もうひとつ、これは作為的なのかどうかわからないが、本作も「3月のライオン」も女性同士のドロドロした(特に恋愛に絡んだ)対立をほとんど描いていない。
昔の競技少女マンガといえば、競技のライバルはほぼ恋愛のライバルでもあったわけで、本作と「3月」が流行している今から振り返れば、良くも悪くも重い。重すぎて柔な男では入っていけない。
この点からも現在の競技少女マンガは、男性読者もある程度意識しているという推測が成り立つ。
これは読者のボーダーレス化の反映ではあるだろうが、もはや、読者の性に特化した作品では、出版社も作り手も食べていけない、みたいな事情もあるのかもしれない、という少し景気の悪い想像もしてしまった。
…とここまで書いてみたわけだが、やっぱり原作の話しかしてない。ていうか、本作はそれ以上の話ができない作品なのだ。
もちろん、それだけ原作に忠実であるということではあるし、それは原作ファン(私もその一人である)にとってはそれなりに喜ばしいことではある。だが、できれば、アニメ版にしかできない何かが盛り込まれていれば、なお良かった、とも思ってしまう。
具体的な例として実写版を挙げてみる。
ちなみに、私は作品の完成度はアニメ版のほうが上だと思っている。
しかし、実写版には実写ゆえの迫力が確実にある。特に競技中のシーンは人と人のぶつかりあい、かるたの動き、競技者の目の演技など、アニメ版よりも、さらに言えば原作よりも迫力があって、そこだけは結構感心した。
まあ、実写とアニメでは、難易度の質が異なるので同列に語るのはフェアではないとは思うが、本作にも何かひとつ、見栄えのする演出や美しい背景などの工夫があると、もう一段高いテンションで鑑賞できたと思う。
これは批判というよりも「ないものねだり」に近いものだけれども、ちょっと手堅すぎて、何というか「普通に」鑑賞してしまった。