「キノの旅 -the Beautiful World- the Animated Series(TVアニメ動画)」

総合得点
78.8
感想・評価
755
棚に入れた
3311
ランキング
534
★★★★☆ 3.7 (755)
物語
3.8
作画
3.7
声優
3.7
音楽
3.6
キャラ
3.7

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雀犬 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.8
物語 : 3.5 作画 : 4.0 声優 : 4.0 音楽 : 4.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

表裏一体の物語

旅人キノが相棒の「しゃべる二輪車」エルメスと共に様々な国を巡る
ロードムービー的な1話完結のファンタジー。
2003年に一度アニメ化されており、全12話中3話は前作のリメイクになります。
原作は今も連載中で20巻を超える根強い人気のライトノベルです。

キノの旅の特徴は何といってもシニカルな作風でしょう。
人間の醜悪さをこれでもかと描き、血が流れる場面も多い。
様々な国が登場するが、今のところ住みたいと思う国は一つもありません。
ではこれが胸糞アニメかと言うと、そうではないんですね。
サブタイトルはthe Beautiful World。
キャッチコピーは「世界は美しくなんかない。そしてそれ故に美しい」
その意味を考えるのが読む者、観る者の役目なのでしょう。
キノが主人公でありながら傍観者でいるのは私達に考えさせるためです。

逆説的な視点で見ていくと、実はこの作品、
今私達が暮らすこの世界を讃えているのではないかと思うのです。
たとえば第1話の『人を殺すことができる国』は私刑が許されている国とも言えます。
この話からは法と行政によって市民が守られていることの価値を認識することができます。
第2話の『コロシアム』はシンプルに専制君主制を否定した物語と受け取れます。
そしてこのような血生臭い娯楽に興じる必要なく、
知的娯楽に囲まれている私達はなんと幸せなことでしょう。
第3話の『迷惑な国』からは国際協調の精神を学ぶことができます。
第4話の『船の国』は無知の悲劇を描いた物語ですが、情報社会の良さを見出せないでしょうか。

キノ達が訪れる国々は、観ている者にあまり良い印象を与えない。
でもそれぞれのストーリーは人の歴史のアレゴリーだと言えます。
第2話のコロシアムなどは殆ど古代ローマそのものです。
だからこそ、この皮肉に満ちた物語を見た後に
長い歴史をかけて創り上げた道徳律、文化、文明の尊さを再確認できないでしょうか。

人間の愚かさと素晴らしさは表裏一体。そう思えば世界の美しさを感じることができる。
キノの旅は人間否定の物語ではなく、実は人間肯定の物語なのだと思います。

 "(このアニメの)世界は美しくなんかない
 そしてそれ故に(現実の世界は)美しい"

道徳心とは生まれつき人間に備わっているものではなく、
家庭や学校で教育を受けて獲得するものです。
まだ分別のつかない子供に向けて作られたアニメやマンガは、
正義が勝つ、悪は滅びるという勧善懲悪が原則として貫かれます。
そして、主人公は「正しさ」というものを伝えてくれる。

本作が少年マンガ的物語と決定的に違うのは、
主人公が必ずしも規範となるような行動をしない点にあります。
キノの旅にはキノ以外に準主人公と呼べるキャラクターが登場しますが、
基本的には狂言回しの立場を取ります。
キノに限らず、シズにしてもフォトにしても師匠にしても、生い立ちが非常に特殊で
一般的な人生を送ってきた視聴者とは相容れない価値観を持っています。
彼らは正解を示すのではなく、観る者(あるいは読み手)に
何が正しいのかを問いかける役割が与えられているのです。

本作を楽しむために必要なもの、それは教養。
大人向け娯楽作品への入口として、ちょうどいい作品なのではないかと思います。
おそらく中学生から高校生くらいの間に観ると、
新しい世界に触れるような感覚があって一番面白いんじゃないかな。

投稿 : 2017/12/23
閲覧 : 366
サンキュー:

40

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