kku さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
君はどうせ君だよ!
幼少期天才ピアニストと言われた少年がトラウマを抱えピアノを弾けなくなるが、ある少女と出会い・・・。
天才?ピアニスト?というと一般世界からかけ離れすぎてるキーワードですが、そうではなくて多くの人に該当、経験したであろう心の迷いや不安や障害やちょっとしたトラウマなどある人などにすぐに置換でき、スムーズに作品に没入できると思います
「好きな人ができると見るもの全てがカラフルになる」
冒頭のセリフ通りこの作品はさまざまなコントラストが印象的でした
カラフルとモノトーン、光と影、コミカルとシリアス、笑顔と泣き顔、過去と現在、静寂と喧騒、ヒロインと母親、止め画と動画、永遠と無常etc。
これらを上手く対比させ、時に深く心象を描き、時にバランスを図り、時に鮮烈なイメージを与え、美しく繊細なビジュアルアートとインパクトのあるメタファーで脳裏に深く刻まれるシーンがいくつもあります。
またフラグやサジェスチョンがいくつも張り巡らされそれを追うだけでも面白いです。
{netabare}
(桜、落葉、黒猫、猫や人の目の色、黄身、23、曲、本の意味などなど)
{/netabare}
その中でも印象的なのがかをりという名のヒロイン
影を蹴散らす夏の強い日差しのように、月の光に照らされまたたく蝶のように力強く魅力的に描かれてました
しかし視聴者はまず主人公の自分語りや回想などに誘導され主人公目線で
鑑賞するように設計されているので最初気づかないようにできてます
2度の視聴をお勧めします
すぐにヒロインの虜になると思います
ストーリーは重いです
重いですが前述したとおり対比を通じて重くなり過ぎないように
上手くバランスが図られていますし、美しい作画と上手な構成であっという間に各1話を消化すると思います
作画や音楽は一般的なアニメの水準をはるかに超えており正直びっくりしました。クラシックの抑揚に演出をぴたりはめ込む手法はもはや芸術の域です。
OPED曲は最初ピンとこなかったのですが、2週目鑑賞でまるで違って聞こえてきます。これはアニメに限らず映画の名作にも言えますが化学反応すると
曲の世界が何倍にも広がる不思議な感覚です。
作品が音楽の世界を広げ、音楽が作品の世界を広げるといった感じです
時折大事なシーンで挿入される「私の嘘」という曲はまるでトルナトーレの映画におけるモリコーネの曲のようにそのシーンを完璧なまでに演出し感動の鈴が鳴り止みませんでした
しかし少し残念な点もあります
{netabare}
主人公たちが14・15歳という点
明らかに年齢不相応なセリフが並びます
早熟の範囲を超えた練りに練った言葉のチョイスは一見粋に見えますが
感情移入の障害になりました
つまりセリフに作者の残影がちらほら。
例えばキメ台詞の時に出てくるならそれはそれで印象的ですが分量が多すぎのような気がします
また、ヒロインのこれまでの過酷な生活や家族との関係が情報不足で彼女のパーソナリティをもっと堀り下げても良かったのでは?と思いました
そこまでにいたったいきさつやどうしてそこまで強くなれたのか、もう少し情報があればもっと等身大の人間味のある姿になったのかなぁと思います
物足りないので最後のシーンは名シーンでも少し爆発力に欠けました
OVAが後で出ましたがまずはここじゃないのかなぁと思ったりします
{/netabare}
とはいうもののそんな問題は瑣末なものとして地球の裏まで吹き飛ばすほど
この作品は力がありました。
ひとつひとつのセリフが心を突き動かす力があり、なんだか心の霧が晴れていく気持ちになれました。この作品を観ないなんてありえない作品です。
・印象に残ったシーン
{netabare}
いくつもありますが私は7話の手を合わすシーン。まるで自分に言い聞かすような言葉はそれまで苦難を乗り越えてきた人の言葉だろうし、手を合わすシーンはキスよりドキドキするシーンでした。背景の電車の暗喩もとてもいいですよね。あの笑顔の止め画は最高でした
{/netabare}
・最終話について
{netabare}
猫を追いかけるシーンや子供とすぐ仲良くなれる部分や素直になれない点やささいな嘘や主人公に嫉妬してほしい的な行動は自分の人生が有限で、なおかつ彼女が同世代の中で普通の生活を送ってこれなかった彼女の中に残ったイノセンスだと思う
ここまで健気でピュアな表現しておいての話なのでやはり救いが少ないかなと思ったりします。落差があるから悲話だというのは分かるけど。。。
作品がもののあわれや無常を根源テーマとして訴え、ゆえに歯をくいしばって過去を受け入れて今を愛し、人を愛し、未来を見て、歩みを止めるなというかをりが表現した生き様を少し損ねるかもしれないですけど、きわめてセンチメンタルな話としての心残りです。
人の気持ちってそういうものだと思うんですよね
{/netabare}