たわし(爆豪) さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「ジョーカー」を見て
バットマンやジョーカーの説明や、この映画が製作されるまでの経緯、前評判うんたらかんたらとかあまり書きたくないので率直に思ったことなのですが、
「普通」の人は人生を「楽観もしていなければ、悲観もしてない」と思うのです。
最近のアメコミブームもあって、若いカップルから年配の方までいまして劇場は超満員でしたが、全観客が、静まり返って終わった直後も呆気にとられてしまった原因はこれだと思います。普通の人はジョーカーになるまで「悲観」していない。
だからこそ、我々は日常赤の他人と暮らせるのだし、社会を運営していける「良心」があるのです。
これがなければ、社会どころか人類はここまで文明を発達させて核戦争なり、殺し合いをして勝手に滅んでいったと思います。
だが、我々は「生きている」。
ジョーカーの言うことは一理あります、みんな電車の中ではスマホをいじって満員電車だろうがなんだろうが他人には見向きもしない。アイドルやイケメンにはまって、「幻想」だけを見て本当の恋愛をしない。そのことは「現実」です。
しかし、それでも私たちはこの偽りの「平和」を享受し、子供たちには多少の嘘をついて社会を形成している。
今回のトッドフィリップス監督の「ジョーカー」は、世界の賞を総なめするほど凄まじい熱量とロバート・デ・ニーロやホアキン・フェニックスの怪演により、映画「タクシードライバー」や「ゴッドファーザー」「第三の男」などのフィルムノワールの名作に名を連ねるだけの凄みがあります。
しかし、僕は終始頭の中でこの原作であろうDCコミックス「バットマン:キリングジョーク」のイギリスの原作者アランムーアの世界的名作「ウォッチメン」の一節を思い出します。
人類が混沌に陥り滅亡を待つだけの終盤で、世界でただひとりのスーパーヒーロードクターマンハッタンが、恋人のローリーに問いかけます。
人類を悲観するドクターマンハッタンに対して
ローリー「で、でもあなたずっと、生命にも人生にも意味はないって言ってたじゃない。なのに何故。。。」
ドクターマンハッタン「気が変わった」
ローリー「でも。。。なぜ?」
ドクターマンハッタン(D.M)「熱力学的奇跡だ。理論上不可能ではないが、発生確率が天文学的に低いため、事実上不可能とみなされている事象だ。例えば、酸素が自然に編成し、金になるような場合を指す。ずっとそうした現象を見たいと思ってた。」
D.M「ところが、人類の交配においては1個の卵子に対して数億の精子が放たれる。この生殖が太古から幾世代にも繰り返され、その都度、適切な息子または娘が生まれて、繁殖期まで生き延び、さらに子を成してきた。」
D.M「その末に生まれた君の母親は、いくら憎んでも憎み足りない男を愛し、交接した。そしてまた数億分の一の確率の受精を経て、今ある君が誕生した。唯一無二の君が。。。」
D.M「これは酸素が自然に金へと変貌する場合に匹敵するほどの。。。極めて低い確率だ。熱力学的奇跡と言える。」
ローリー「でも、もし私の誕生が熱力学的奇跡なら。。。全世界の全人類が残らず、奇跡的存在なんじゃない?」
D.M「そうだ。地球上のありとあらゆる人間が奇跡だ。」
D.M「ただ、人間の数が余りにも多く、奇跡があまりにもありふれているため、誰もがそれを忘れてしまう。私も忘れていた。見慣れすぎたせいで、感覚がマヒしていたのだ。だが、少し。。。ほんの少し視点を変えて見つめ直せば、全てが新鮮で、驚嘆に値することがわかった。」
D.M「さあ、涙を拭いて。君はクオークよりも希少で、ハイゼンベルグが夢想だにしなかったほどに予測困難な存在だ。万物を創った力の指紋を、くっきりと写した粘土なんだ。」
D.M「だから涙を拭いて。。。地球に帰ろう」
我々の知る限り、人間の生存の唯一の目的は、単に存在するということの暗黒に、意味の光を灯すことである。
C.G.ユング「記憶、夢、反射」より