岬ヶ丘 さんの感想・評価
4.0
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
踊れ、踊れ、踊れ
原作未読。題材は「社交ダンス」。テレビ番組で芸能人が挑戦しているのを見たことはあるが、アニメとしての試みは恐らく初めてだろう。マイナーな題材ではあるが、インパクトだけでなくしっかりとしたエンターテイメントとしてまとめている作品だと感じた。
何の目標もない平凡な中学生が、競技ダンスと出会い成長していく物語。主人公は素人ながら優れた観察眼でダンスの技術を学び、競技ダンスの世界にのめり込んでいく。主人公の才能も既視感はあるが、物語に感情がしっかりと乗っており全体的に引き締まっている。芸術的な要素・心理描写に重きを置いており、既存のスポーツものとの差別化が図られている。芸術的な要素は感覚・抽象的であり受け取り手の反応も難しい面があるが、本作は競技ダンスの用語や魅力を存分に生かした内容になっている。
キャラクターについては、富士田、兵頭を筆頭に魅力的な登場人物が多い。二人一組の競技ダンスの特性を活かしたキャラクターの魅せ方が特徴的。例えばパートナーを懸けた富士田と雫・赤城兄妹での天平杯は、ダンスの優劣を競いながらも、同時にパートナー(女性)を懸けた男性同士の戦いとも見れて面白い。そこに雫や真子など女性陣の心理描写も加わって、人物模様に厚みを感じる。最後の落としどころもうまい。また、まるで全てを見通すような発言をする兵頭もミステリアスで、面白い役どころ。各キャラクターがダンスへの情熱や葛藤・迷いといった様々な心情を抱えながら、ダンスと向き合っていく道のりを高い熱量をもって表現している。
2クール目では新しいパートナー・千夏との出会い、ペアとしての試行錯誤の過程を丁寧に描き、ダンスを通じた究極のコミュニケーションとは何かといった深い領域にも踏み込んでいる。千夏はリーダー経験のあるフォロワーであり、非常に面白い役割を担っている。圧倒的にリーダー・男性優位の競技ダンスの常識に囚われず、互いにリードし合うという新しいダンスの息吹き。互いの感情のぶつかり合いや議論を重ねて自分達のダンスを導き出す姿は、社交ダンスならではの要素を最大限に活かすギミックとしてオリジナリティーを感じる。仙石の台詞にもあったが、「他人を完全には理解できない」ということを理解すること、理解できないうえでそれでも共に踊り続けるということ。ダンスを通じた人間的成長・コミュニケーションの足跡が強くにじみ出ている。
原作の描き込み具合が非常に高いのだろう、アニメの画もかなり力が入っていた。特に瞳の描き方は思わずこちらが吸い込まれそうなほどの錯覚を覚えるほど。評価の別れる点とすればダンスシーンか。
ダンスシーンは止めた画を効果的に使いながら、ダンスの高揚感や臨場感を演出しようという意図は感じられる。毎回の画のクオリティーは非常に高いのでそれで見れない訳ではない。ダンサーの身体の美しい造形美が丁寧に描き込まれている。ただ紙芝居というレビューもあったように、そういった演出に頼りがちな回も多かったか。
それでも大事なシーンはしっかりと動かしていた印象で、個人的にはメリハリを利かせたハイブリッド演出という評価。原作の質の再現・2クールという長丁場を考慮すると仕方のない部分もあるが、ダンスシーンは重要な要素なので出来ればもっと動かしてほしかった気持ちもある。しかし本作は単純な動かす美しさではなく、魅せる美しさをコンセプトにしていたように感じ、その点では演出の貢献は非常に大きかったと思う。
音楽もOPはUNISON SQUARE GARDEN、EDはQ-MHzの全面プロデュースで、音楽面でも物語を盛り上げてくれて好評価。今年のUNISONはアニメタイアップで新曲を続々リリースしたのでかなり驚いた。
競技ダンスというマイナーな競技を魅力的な物語に昇華し、芸術的スポーツアニメの代表作となることを願いつつ、競技ダンスがより多くの人に認知されることを願います。(偉そうな事言って自分は無理です(笑))