空知 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
きっと大勢の「すずさん」がいた
原作未読。
『火垂るの墓』のような、これでもかと泣かせにくる作品だったらレビューをしなかったと思います。(『火垂るの墓』は名作ですし、高く評価していますが、二番煎じはいらないという意味です。)
反戦一色の思想を押しつけてくる作品であるなら、レビューしないでおこうと思っていたのですが、良い意味で予想を上回る作品でした。
本作は戦争を扱っているものの、日本のどこにでもあったであろう出来事を、視聴者を泣かせることを狙わず、ところどころ、ほのぼのに描いているのが特徴です。
主人公の女性が若干天然な部分を持っていることが、かえって戦争の悲しさを感じさせます。
戦争そのものの悲惨さを直接的に描写するのではなく、主人公のほのぼのとした生活を描くことによって私達に戦争の何たるかを訴える手法は素晴らしいと感じました。
戦争を扱った作品のレビューは、多少なりとも思想性が絡んでくるので難しいものです。
改めて平和のありがたみを噛みしめ、私達の国や世界が経験した悲劇を歴史から学ぶ必要があると感じます。
戦争には勝ち負けはあっても、結果的には戦争して良かったという国家は存在しないでしょう。
戦争は、単なる憎悪の応酬としての殺し合いに他なりません。
戦争を扱う実写映画はあまたありますが、この作品はアニメによって、どこにでもある普通の日常生活を通して、その背後にある戦争の悲惨さを描いたいう点で高く評価できます。
よく考えられたうえに上手に演出された作品だと感じました。
主人公は、どこにでもいたであろう当時の平均的日本人かと思います。
それゆえ、観ている者に、
「ああ、こういう悲しい出来事が私達の想像以上にたくさんの人達に起きたんだろうなあ・・」
と想像させる点に、この作品の素晴らしさがあります。
秀作です。
{netabare}
のんびり屋さんで、少し天然のすずさん。
唯一の楽しみが絵を描くこと。
そんな、どこにでもいるような普通の女性。
その彼女が、義理の姉の娘と歩いているとき、空襲で爆弾が落とされます。
鈴さんは、姪と右手を繋いでおり、爆発で姪と右手を失います。
自分の不注意で姪を殺してしまったという罪悪感と、絵を描くことが二度とできなくなるという悲しい悲しい経験をしてしまいます。
玉音放送で敗戦を知ったすずさんは、こう叫びます。
「なんで?そんな・・覚悟のうえじゃなかったんかね?
最後の一人まで戦うんじゃなかったんかね?
まだ両脚も左手も残ってるのに・・」
そして裏の畑で一人泣く場面では、
「飛び去っていく、うちらのこれまでが
それでいいと思ってきたことが
だから、我慢しようと思ってきたその理由が
ああ、海の向こうから来たお米、大豆
そんなもんでできとるんじゃな、うちは
ああ、なんも考えんぼっーとしたうちのまま死にたかったな」
このシーンは、当時の日本人の多くが抱いたであろう悲しみを上手に表現しています。
それまで信じてきた全てが否定されてしまった瞬間。
それまで過してきた時間も、価値観も全てが否定され、
愛する人や家族の死さえも「何のために死んでしまったのか」と問わずにいられません。
それでも、作中では誰もがたくましく生きようとする人々の姿が描かれています。
このたくましい人たちが涙をこらえて立ち直ろうと努力したお陰で、今日の僕たちの豊かな日本があることを忘れてはいけませんね。
孤児を引き取った場面も心あたたまるものがありました。
皆が貧しく、心に傷を持っていたにもかかわらず、そうした優しさに心救われる思いがしました。
僕は個人的に、人間が危機的な状況に追いやられると、これほどまでに醜くエゴむき出しの存在になるものなのかを災害の中で経験したことがあります。
なので、貧しくて食べるに事欠く人々の心は定めし荒んでいたと思われます。
そのような状況であっても、孤児を引き取るという人間の優しさに心癒されました。
作品自体が「戦争における人間の残虐さ」と「人の優しさ」という二律背反を描いている点で、『夜と霧』を思い起こさせる部分がありました。
{/netabare}