イクザ さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
原作ファンから見ても良作
原作者の竹宮ゆゆこを、前作の「わたしたちの田村くん」から追っかけているファンだが、その原作ファンから見ても「よくまとめてくれた」と言える良作。
竹宮作品のキャラは、一見突飛に見えるが、内面は突飛でもなんでもなく、極めて王道。ストーリー展開も特殊な味付けを施しているものの、よくよく見ればセオリー通りということが多く、万人受けする要素を多分に含んでいる。
本作は所謂ラブコメにカテゴライズされることが多いが、実は青春群像劇であったりする。原作では、竜児のクラスメイトの春田や能登にもメインストーリーが用意されており、それぞれのキャラ設定が非常にぶ厚い。アニメでは尺的な問題もあって、主要の5人に絞られているが、内容は充実しており、特に原作でも評価の高い北村編のクライマックスは演出・演技・作画、どれも申し分ない。また、その北村編の中心人物である狩野すみれも、序盤からチラチラと登場しているのだが、そのセリフや見せ方がうまく、すんなりと物語の中心にに入ってきて、だからこそクライマックスで誰もが騙され、してやられた。
本作を支えているのはこのしっかりしたキャラ設定ではないかと思う。よく「キャラが勝手に動く」と漫画作者などは言ってのけるが、正にとらドラもそうだろう。表面的には凶暴だったり、壊れ気味だったりの各キャラだが、内面は等身大の思春期真っ盛りの高校生で、そこがしっかりと練り上げられているからこそ、前述の物語序盤の狩野すみれのセリフや仕草がある。最近、とりあえずツンデレ、とりあえず妹、とりあえず先輩等、その表面だけを借りてきて、中身はスッカスカ(おそらく深く物語を理解せず、エッセンスだけパクっている)のキャラや作品をゴマンと見るが、そういうのを見るたび辟易してしまう。とらドラを見ろ等とは言わないが、もう少し頭を使うべきで、何よりラノベに対してのリスペクトがたりない感じる。
と、ここまでべた褒めしてきたが、それでも物語評価に満点を付けないのは、本作のクライマックスが気に入らないから。本作のテーマは青春群像劇だというのは既に前述したとおりだが、思春期を迎える高校生の群像劇とは、即ち人間的な成長があってこそのものだろう。とらドラにおける成長譚の主人公は勿論竜児と大河であり、彼・彼女が大人になってこそ、この物語は晴れてエンディングを迎えられるはず。
しかしがなら、本作のクライマックスからは、その気配が感じられない。具体的に言うと、大河が去った後の竜児のセリフである。実乃梨に「高須くんはこれでいいの」と詰問され、竜児がこう言ってのける。
「いいわけないだろ」と。
これがもう全くだめ。つまりは竜児が成長していない。竜児と大河が、物語の初めからずっと歪な依存関係にあるのは見ての通りで、それを一度清算してこそ、彼らが己の2本脚でのみ立ち上がったことになるわけだが、最終話でそんなセリフが出てきたら、「竜児、お前いつまで駄々こねてんだ」と言わずにはいられない。
このシーン、実は原作では「これでいい」というセリフだったりする。しかも、原作竜児は大河が泰子の実家から無言で立ち去るのに気づいておきながら、敢えて呼び止めない。それはなぜか。大河が己の足で、自身の問題にケリを付けに行くと悟ったからだろう。
大河はずっと竜児に甘えてきた。竜児だけではない、実乃梨にも亜美にも北村にもだ。親友が恋心を捨て去ってまで背中を押してくれないと、自分の気持ち一つ、竜児に伝えられなかった。その親友には、駆け落ちの真似事をする時にまた世話になっている。はっきり言って情けない。虎なんかではない。奇特な人にミルクを恵んでもらわなければ生きていけない路地裏の子猫だ。
それにようやく大河は気付いたのだ。このままではいけないと。自分は戦わなければいけない。自分が今までずっと逃げてきた、折り合いの悪い母親と再婚相手の義理の父、そして生まれてくる"弟"。それらと一度向き合わないといけない。そうおもったのだろう。
そして、その決意をを原作竜児は汲んだのだ。勿論寂しいだろう。ようやく思いの繋がった恋人と、何故離れなければならないのか。しかも離れるのは心の距離ではない、物理的なものだ。次食卓を囲むのはいつになるかしれない。本当は引き止めたかったろう。しかし、あの甘えん坊の大河がようやく一大決心をしたのだ、尊重しない訳にはいかない。大河が勇気を持って立ち向かうのなら、自身も大河がいない寂しさに向き合う勇気を持つべきだ。そしていつの日か、全ての問題に片を付けて帰ってくる大河を、信じて待つことこそ、恋人の務めではないのか。そんな葛藤があったに違いない。
で、「これでいいんだ」のセリフである。もうこの一言に、とらドラの物語は集約されていると言っていい。ただ、それがアニメには受け継がれなかった。それまで原作の魂を汲み取りながら進んできたと思っていたのに、それらが集約されることなく、空中分解してしまった印象だった。
また、アニメ大河の終盤の行動もちょっと腑に落ちない。みんなの前から姿を消す際、原作では通帳や印鑑を持ち去っているのだが、アニメでは自宅に残したまま立ち去っている。
通帳や印鑑を持ち去るということは、「もうここには帰らない」という意思表明と覚悟の象徴といえるだろう。それだけ原作大河は腹を決めた決断を下したわけで、並々ならない意志が伺える。一方、アニメ大河はそれらを残したまま自宅を後にしている。原作に比べ、その覚悟に鈍りが見受けられるのは深読みしすぎだろうか。勿論、ただ忘れただけというのも十分考えられるが、いずれにしても、原作大河と比べ、アニメ大河からは成長していないのはおそらく事実で、これもまた、アニメ竜児と同じく、とらドラの本質的な流れから最後の最後に逸れていってしまったように感じられた。
とまぁ長々といちゃもんを付けては見たものの、原作を抜きにして考えれば、良作と呼べるクオリティには十分仕上がっており、挙げた狩野すみれと大河の丁々発止のやり合い以外にも、恋心をお化けに例えて語りかける竜児と実乃梨のシーンや、校内を疾走しながら告白する実乃梨のシーン、そして一向に報われない、物語中一番健気な亜美のセリフや仕草など、しっかりと見どころも用意されている。ただやはり、あと少しでもうワンランク上の作品になれたはずだと思うと、原作ファンとしては悔しさも残る作品だったと言える。