「プリンセス・プリンシパル(TVアニメ動画)」

総合得点
86.1
感想・評価
986
棚に入れた
3965
ランキング
211
★★★★☆ 4.0 (986)
物語
4.0
作画
4.1
声優
3.9
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

ブリキ男 さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 3.5 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

壁によって隔てられた、二人で一人のプリンセスの嘘で綴る優しくて残酷なおとぎ話

革命によって王国と共和国、2つに割れてしまった※1アルビオン王国を舞台に5人のスパイ少女=プリンシパルの活躍を描くスチームパンクSF活劇。2人の少女と3人の仲間たちが国境の壁を取り払うべく奮闘します。

主要キャラは、ケイバーライトなるメタテクノロジーの産物※2Cボールの使い手、壁を走り雲を翔け、地を空を縦横無尽に飛び回る黒蜥蜴星からの使者アンジェ、※3美貌と口車が武器、車の運転から射撃に格闘、何でもござれの頼れるお姉さんドロシー、七色の声を操る人工声帯の持ち主でプリンセスの為に健気にがんばる侍女役のベアト、華奢な身体にだんびら掲げ、並み居る敵をバッサバッサと切り倒す剛の者、朴訥一途なちせ童子、そして、大きな夢と秘密を抱き、王女かくあるべきと毅然に振舞う努力の人"プリンセス"の5人。どのキャラもとってもチャーミングです(笑)

1話はコンセプト紹介、2話にて世界観の提示及びキャストのお披露目終了という印象を受けて、3話目以降からは複雑に謎が絡み合う重厚なドラマが始まるかと思いきや、中を開ければ物語は単純そのもの。1話完結ミッション遂行型スパイアクションが展開されます。

Cボールを用いた浮遊感抜群のアンジェの超絶アクションから、小さき剣豪ちせちゃんの華麗にして神速なる迫力の殺陣、ガンアクションからカーチェイスまで、活劇描写の作り込みは極めて高レベル。繊細でキレのあるアクションシーンは繰り返しの視聴に耐え得るほどお見事な出来栄えです。瞬きせずにご堪能あれ。

※1:普通にブリテン島の古名だったりする。ラテン語の「白い」が語源。イギリスの古典マビノギオンとかの中に記述がある。ガンダムに出てくるホワイトベースの亜種ではない(笑)

※2:重力制御で飛んだり跳ねたり自由自在、重~い物だって持ち上げられちゃう不思議アイテム。閃光で敵の目を眩ましたりも出来る。継続して使用すると熱を帯び、臨界点を越えるとやがて崩壊する。

※3:という設定。アニメキャラは大体みんなかわいく描かれているので差別化が図れていないというのはお約束。

構成について

全話通しての流れは以下の通り
{netabare}
#01-case13 Wired Liar
#02-case1 Dancy Conspiracy
#03-case2 Vice Voice
#04-case9 Roaming Pigeons
#05-case7 Bullet Blade's Ballad
#06-case18 Rouge Morgue
#07-case16 Loudly Laundry
#08-case20 Ripper Dipper
#09-case11 Pell-mell Duel
#10-case22 Comfort Comrade
#11-case23 Humble Double
#12-case24 Fall of the Wall
{/netabare}
サブタイがどれも面白いですね(笑)時系列がほぼあべこべですが、単体として楽しめるお話が殆どなので、特にストレスを感じる事は無いと思います。初見では意味不明なシーンも後の話を踏まえると、なるほどなと腑に落ちる構成になっているので、かえっていい演出になっていると思いました。

ただ各話ごとの結びつきはそれほど強くないので、謎が謎を生む様な後引く展開は最終2話を除いてありません。嘘の多いお話ではありますが、素直に騙されつつ、少女たちの動向を額面どおりに受け取って、目で直観で楽しむというのが正しい見方なのかもしれません。

世界観などについてのあれこれ

「ロンドンの壁」のモデルは言わずもがな冷戦時代のドイツにあったベルリンの壁ですね。この壁、労働力の流出防止や体制の維持の為に作られた経緯がありますが、本作でもほぼ同じ役割を果たしている様です。壁が壊される時が物語の終幕となるはず‥大きな注目どころです。

ただ壁の作られたいきさつ、ローマ帝国の再来と謳われるほどの覇権国家であるアルビオン王国で何故革命が起きたのかという点については説明不足の様に思えました。

この設定についてはフランス革命がモチーフになっている感じですけど、国力が落ちたり、暴政や圧制が続いたりして、国民の不満が高まっていたという説明は特に無し。栄華を極めた実際の19世紀後半の大英帝国にも貧困による深刻な問題はありましたが、アルビオン王国の経済はケイバーライトの独占と強大な軍事力を盾にさらに潤っていたはず。労働にあぶれて困窮する人はよっぽど少ないんじゃないかと思いました。王国領に住む貧しい人々の描写は※ディケンズやバーネットからの借用の域を出ず、誇張がある様に見受けられました。

※:ディケンズは19世紀に活躍した庶民派の文豪。代表作は「クリスマス・キャロル」とか「デビッド・コパフィールド」とか。バーネットは「小公子」とか「秘密の花園」なんかで御馴染みの児童文学作家。両者とも当時のロンドンの風景を臨場感豊かに描いている事で有名。
{netabare}
もう一つ、プリンシパルが目立ち過ぎるのに違和感を覚えました。ヴィクトリア朝後期と言えばまだ女性のスカートの丈が長かった時代(笑)そんな中5人の少女がミニスカワンピで身を着飾り、ロンドン中を闊歩していたら、それだけで好奇の的になるかと‥暗号文の受け渡しや機密情報の伝達を人前で割と堂々と行なっている所なんかについてはファンタジーの範疇を越えている気がしました‥。ここら辺を徹底するか否かが、リアルとメルヘンを分ける分水嶺になっているのだと思います。王女様がお付きの人も無しに学友だけを連れて行動するというのも有り得ない事ですし、4話のハチャメチャ尾行訓練(笑)とかもコメディタッチ過ぎて、スパイものとしての緊張感を著しく減退させていた様に思いました。

仮にも19世紀末の英国を舞台としているのだから、少なくともストッキングの着用と襟元、スカートの丈くらいは史実に即したものにして欲しかったです。この時代のロンドンで生足を晒して外に繰り出す女性なんて子供を含めてまずいないでしょう(汗)

それと2話のダンスホールのシーン、いくら大人なドロシーでもハタチのうら若きお嬢さん、初老の紳士に対して「好みのタイプだったのに」なんて捨て台詞を残すのはかな~りおかしい。(学生という設定だし)脚本に甘さがある様に思いました。こんなこと言ったら無作法で傲慢な子と見られて、瞬く間に衆目に晒されてしまうんじゃないでしょうか? スパイとしてコレはひじょーにまずい気がします(汗)
{/netabare}
OP、EDについて、OPムービーの完成度は今期随一と評価したいです。「The Other Side of the Wall」は曲の迫力もさる事ながら、ドライな様で情熱的な歌詞が超クール! 転じてEDはポップな切紙絵調のなごやかムービー、の様でいて、曲調にも歌詞にも憂いあり、どことなく不安めいた余韻を残します。歌の中にも抜かりなく嘘を仕込んでいる印象があり、両者とも世界観に忠実である点が素晴らしいです。

優しさを秘めた嘘で綴る痛快娯楽活劇プリンセス・プリンシパル、心を空にしてお楽しみ下され。

最後まで見終えて(9話以降の感想)
{netabare}
9話に中休みとしての日常回、10話に初回を思い起こさせるハードなお話を置いて、最終2話の長編に繋ぐという、とてもバランスの良い構成でした。

9話はちせちゃんのカルチャーギャップからくる奇行を、微笑ましく描いたり、勇敢に描いたり、コメディ描写もそこかしこに見られる小さな決闘のお話。初回近くにこれをもってこられたら、かなり動揺したと思いますが、いつの間にかこのアニメの作法にも慣れてきていたので、難なく許容する事が出来ました(笑)5人の仲良し度が更に深まった良回だったと思います。

転じて10話は水を打った様に静か。本来のスパイものの空気に立ち返ります。スパイ養成所時代のドロシーとアンジェともう一人の優しくも残酷な友情が描かれました。

そして最終2話は女王暗殺と革命を目論むグループと、それを阻止せんとするプリンシパル、コントロール内部にまでも入り込んだ2重スパイの暗躍を交えての急展開。カーチェイスにガンアクション、ちせちゃんアクション(笑)に加え、少女たちの友情と勇気が遺憾なく解放されたプリンセス・プリンシパルの集大成とも言えるお話でした。

パラシュートに書かれていたメッセージの一行目の単語(turtledove)が分からなかったので調べてみましたが、コキジバトの意味だそうで。仲睦まじいコキジバトのつがいの姿、転じて愛する人を指す語となったそうです。なので全文を訳すと‥

わたしの大好きな人(シャーロット)生き延びて。アンジェとして!

になるんですね。籠の中の鳥だったシャーロットの身代わりとしてプリンセスになったアンジェの子供時代からの思いが、短かくも優しい文章の中に込められているようでした。

最後を飾る浜辺のシーンは何だか色々な意味でお約束でしたね。スパイや怪盗は仕事を終えた後、必ず南の島へバカンスに行きます(嘘)また美少女アニメには必ず水着回があります(これは概ね本当)

あくまでもパラレルワールドを描いた作品なので、実際の歴史と照らし合わせてみた場合、描写に違和感が生じるのは当然と言えば当然なのですが、いいとこ取りと言いましょーか、衣装、SFガジェット、刀や銃などの舞台装置を始めとし、革命、冷戦、入れかえ物語などのドラマ要素も含め、最後まで"人造された世界観"という印象が付きまといました。

詩の囁きから連鎖的に紡ぎ出される世界観には矛盾が起こりにくく、オブジェクトが背景に溶け込んだ水彩画の様な調和を持ちますが、これはその対極。設計図を引いて素材を集めて組み立てる類のもの、見事に切り貼りされたコラージュの様な趣のある作品でした。
{/netabare}

投稿 : 2017/09/29
閲覧 : 413
サンキュー:

49

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