ヒロウミ さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
思い出の備忘録は離れ触れるたびに刹那に綺麗で
初恋はいつもいつまでもどんどん美しく、我が身はいつもいつまでも未熟なままで。
【自語りにつき閲覧要注意】
{netabare}
高校時代はPHSから携帯電話への変換期、ミーハーではない我が家に「パソコン」はなかった。当時の携帯電話は今でいうインターネットサイトへのアクセスはできずキャリア各社が独自のサイトを持っておりキャリアをまたいだアクセスはできなかった。毎月様々なサイトがオープンし着メロは電話をかけて携帯電話へ落とし単音から和音に、2~3か月ごとに新機種が出てきてゼロ円で機種変していた。
ド田舎で並みな学力しか必要としない近所の県立学校は中学校時代の大半の友人とともに近隣の町の新しい友人が一気に増えた。入学と同時にバイトも始め様々な人と関りを持ち、持つものも頻繁に変わっていきものすごい速さで世界が開け変化しているように見えた。
そんな中デジタルツーカーが「つるんDEアミーゴ」という有料チャットサイトをオープンさせた。全国の様々な人間にあふれる世界は子供だった私には世界の全ての様にも思えその世界にどっぷりつかった。夜が明けるまでくだらない文字での会話に明け暮れ、サイト内で個人メールができるのでそこで携帯番号を交換し毎日メル友が増え週を追うごとにそのメル友は入れ替わっていた。
当時は○○放題という料金プランはなく、しかもパケットでの料金形態ではなかったため通信料がアクセスするごとに青天井で増えていき毎月5万円程度は当たり前で10万円を超えることも珍しくなかった。午前中はパチンコで小遣い稼ぎ、昼頃から学校へ行き夕方まで爆睡しそのままバイトへ向かい終業したら単車を飛ばし急いで帰宅しまた明け方まで語らう日々だった。
そんな時間も金も無駄遣いを繰り返す生活のなかで一人の同い年の女の子と知り合う。お互いの恋愛相談や進路の相談、他愛ない日常会話を重ねるたびお互いを埋めているような心地で惹かれあい隠しごとのない友達にいつの間にかなっていた。
私は広島から愛知の専門学校へ、彼女は長野から埼玉の専門学校へ進学した。親の全面援助を受け金銭的に裕福だった彼女はダメな男に惹かれる傾向があり埼玉で知り合った男と付き合い始めるが時間の経過とともにヒモへと変化した。私には高校時代から付き合っていた交際相手がいたのだが卒業と同時に就職した大人へ変化していく人間と学生で気ままな私では価値観がズレ始め、月を追うごとに溝は深まっていた。遠距離恋愛の寂しさにも耐えれずつまらない口喧嘩のあと関係は自然と消滅した。1年の夏には彼女は東京へ就職内定が決まり私は地元広島での内定約束をもらっていてお互いの将来は決まっていた。
二人とも何かが足りないのにそれに目をつむり日々苦悩しながら生活していたためそれを補うための心の拠り所としての存在は二人の欲求を一気に加速させた。さらに進学して初めての夏休みに彼女が帰省したため長野と愛知という物理的距離の短縮が全てを補い合いたいという二人の願いが簡単に手の届くものとなった。ここまでの距離となれば後は単純でその夏から二人は彼女が帰省する度に会い、旅先で幾多の思い出を作った。
幼稚で捨てることができなかった。何も解決しない、何も進まない、何も選べなかった私たちの時間は悪戯に心地良く悪意を持ってただひたすら甘く過ぎていった。
卒業と同時に最後に会う約束をした。私は一旦実家に引っ越し家で自由に使える軽自動車で埼玉へ向かった。金銭的に余裕があったわけではなく、下道と車中泊や全国に散った専門学校の友人宅での宿泊を繰り返した。雪が多かった3月で箱根には雪が残っておりスタッドレスタイヤではなかった上にチェーンすら持ち合わせていなかった車のタイヤは急こう配の峠道で頻繁に空転し1km進むのも凄い苦労した。とどめにはスピンし衝突した縁石でパンクもしてしまった。交換したスペアタイヤでしかも未経験の凍結路はとても心許なく彼女との最後の逢瀬への不安と重なり絶望と期待とが複雑に入り交じっていた。
それでも無事箱根を越え二人は夜に横浜で落ち合った。田舎者の私には山下公園や赤レンガ倉庫や煌びやかな街並みはそれはそれは美しいものでやっとの思いでたどり着いたこの地、彼女の傍らのこの位置を失いたくない感情で溢れた。その夜私は言ってしまった、「一緒に来てほしい、大事なことだから時間をかけても構わない。」
二人は夜が明けても語り足りなかった。告白してしまった私は頭の中がいっぱいなのと度重なる寝不足でその後の記憶は曖昧で彼女が好きな川越まで行ったことぐらいしか覚えていない。何か月か過ぎ暑くなり始めたころ「ごめんね、あなたは一人でも真っ当に生活できても彼は私が居ないと人らしい生活ができないの」と言われ甘美で真っ暗で光のない二人の時間と私の本当の初恋は幕を閉じた。
その後の私は大きく沈み何人かの女性とだらしなく過ごしたが決して満たされなかった。3年たち色々落ち着き始め当時付き合っていた女性と結婚もしたが・・・、妻の変化に耐えれず10年で離婚となった。
ほんとろくなもんじゃねぇwww
{/netabare}
お互い惹きあいつつ同じことを想いながら縮まらない距離。薄暗い時間は他に幸せがあるんじゃないだろうか?こうすることで彼女は本当に幸せになるんだろうか?などという箱根越えの不安感と貴樹が岩舟駅へ向かう様子を重ね、出会えた時のこの世のものと思えない幸せに共感してしまう。
眩いほど輝く過去となった思い出の世界に囚われ自我があるようでないような無意味な時間。何もないからこそ目を奪われる美しい景色が空っぽの心に染みわたっていく。その心の牢獄は苦しくも時とともに砂へと風化しキラキラと空へ散っていく。
幾度も幾度も幾度も幾度も「早く会いたい」、「もっとここに居たい」と強く願っていた私の心を鋭利に掻きむしりえぐる山崎まさよしの優しい歌声と共に回想される物語は未だに強烈なフラッシュバックを起こし自分の思い出が回想される。胸が苦しく高ぶり鼓動が早くなり血と目頭が熱くなる。
この作品を見る度にチクチク痛むのに歳を重ねるごとに当時以上の大切な宝物となっている。当時はもっと苦かったはずなのだが悲しいかな記憶の美化(劣化)は歳だな(笑)
苦しくも心地いい過去を思い出させてくれるこの作品は私にとって麻薬のようなものなのだが見終わってふと我に返ると男(自分)の女々しさって客観的にみると本当に痛々しい。
それでもこの歳で人として一周目の経験が済み本当の意味で一段落したからこそそれらの酸いも甘いも辛いも苦いも可愛く見える。よくある有象無象のオッサンの他愛もない思い出話し。歳だな(笑)
【以下過去レビュー】
{netabare}
越えられない距離、離れた時間ほど離れる道筋、取り返せない人生の物語。
ストーリーについては色んな評価がありますが私は好きです。新たな道を進む人、そこに残り続ける人。余計なセリフや脚色が無いからこそ色んな意見があるのだと思います。深い作品だと思います。残された者の最後の選択はどうなったのか、その選択の結果どうなったのか。それは感じた事が見た人の答え。
作画も素晴らしいものでしたね。種子島の永遠に続くような青空、澄んだ海、悲しく消えていく夕暮れ空、手から溢れる無数の輝きを放つ星空。懐かしかったです。
力が無いが故にどうしようもない物理的な距離、青いからこそ馳せ続ける思い、時間がもたらす現実。そこに私の青春の、失恋を癒してくれてた山崎まさよしの名曲が来ちゃえば残り8分は涙が止まるわけないですよね。ちなみに1話のピアノver.でもきちゃいましたけど。
私の答えはどうしようもない不可能なものが青年から青さを思い出に変えて大人となった答えが出ました。{/netabare}