Tnguc さんの感想・評価
3.5
物語 : 3.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
エロゲーに対する偏見を超えた世界観はあった…と、思う
~
ゲームメーカー・Keyが2000年に発売した美少女ゲーム(R-18)が原作。後に「泣きゲー」として美少女ゲーム界に多大な影響を与えた本作を、2005年に京都アニメーションが高水準のクオリティーでアニメ化した。
シナリオライター・麻枝准(まえだ・じゅん)による、少年少女の淡い群像劇にミステリアスなSF要素を絡ませる技法はこの頃から既に確立しており、虚構な世界観ながらも、まるでどこかの小さな島で本当に起きたかのような雰囲気は「麻枝マジック」とも言えるデザイン力がある。
本作は、ヒロイン・神尾観鈴(かみお・みすず)や他のサブヒロインたちが抱える宿命に、主人公・国崎往人(くにさき・ゆきと)が芯を持って接していく人情話で構成されており、その中でも、ヒロインたちが抱えるミステリアスな運命がメインストーリーとなっているが、その核心的な部分(設定)は明らかにされないまま物語に干渉するため、彼女たちは一体どういう局面に置かれていて、何が問題になっているのかが不明瞭なためいまいち感情移入ができず、観鈴たちが迎える運命に対して、漠然とした印象のまま視聴者は付き合わされることになる。これは、伏線はもとより設定までもが隠された状態で物語が進行しているからであり、少なくとも、ヒロインたちの状況に対して、ゲーム未プレイの視聴者は置いてけぼりとなる。
後半、唐突に始まる時空を超えたスペクタクルによって、ヒロインたちの設定が解き明かされていくが、観鈴たちの抱える宿命はもはやファンタジーの領域であり、さらには「転生」や「魂」などの概念によって物語はスピリチュアル化してしまう。ゆえに、人間ドラマとしてはいまいち共感は得られず、あまつさえ「難しい」という感想で片付けられてしまう。
そもそもこの作品、よく「難しい」と言われるが実のところそれは当たり前のことだと思う。と言うのも、本作を完璧に理解しようとするにはゲームや解説サイトなどで補完する作業が必要となり、解説サイトなどを巡回して初めて「あぁそうか」と思うことができるが、残念ながら本作を視聴している中でその感動が生まれることはない。無論、原作をプレイ済みであったり、二周以上視聴している人にとってはこの限りではない。
あと、この作品の主軸はあくまでも観鈴と往人と晴子(はるこ)の物語だと思うが、それゆえに佳乃(かの)や美凪(みなぎ)などのサブヒロインたちの存在価値がいまいち分からなかった。この辺りの原因は、ゲームとアニメの媒体の違いによるものだと思う。また、テーマの一つに親子愛も取り上げているが、観鈴に対する親戚たちの接し方は物語を破綻させないための産物という感じがしてリアリティーはほぼ感じられなかった。
少し辛口なレビューが続いてしまったが、このアニメ全体に感じる雰囲気は随一の存在感がある。それも全て、麻枝准によって散りばめられた「泣き」の要素と、それらを上手く演出したアニメスタッフの力添えによるものだろう。髪の毛一本一本がなびくOPアニメや、ふわりと舞い上がるスカートの動きなど、京アニによる抜かりのない作画に加え、川上とも子、久川綾、田村ゆかり、小野大輔など、魅力的な声優の面々が華を添える。まさか本作でも久川綾のコテコテな関西弁が聴けるとは思ってもいなかった(ケロちゃん的な意味で)。もはや物語以上に存在感のある劇伴曲「夏影」や「銀色」、OP曲「鳥の詩」は麻枝准の代表作である。
音楽、声優、キャラデ、季節、舞台など、全てにおいてノスタルジーを放つ本作は、これからも夏が来るたびに懐かしさはより鮮やかに染まり、思い出は一層深まっていくことだろう。彼女たちが過ごしたたった一年のあの夏には、夏が持つ全ての魅力が凝縮されていると思う。
個人的評価:★★★☆☆ (3.5点)