MLK さんの感想・評価
2.6
物語 : 1.0
作画 : 3.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.0
状態:----
無題
まずこの作品を見て感じたのは、強い怒りである。
攻撃的な神と戦って若者が傷つきドツボにはまっていくセカイ系作品ほど無益なものはない。神の死んだ時代、魔法の死んだ時代において、実際の少女を苦しめているものは人間である。我々が絶対に逆らえないと思っている力の正体は、権力であり、人間社会なのだ。我々自身が見えないところで、法や権力、戦争といった形をとった我々を含む人間の意思は無責任に他人を傷つける。戦争を経験した昔の人間はそれが分かっていたから、永井豪はデビルマンを、手塚治虫はブラックジャックを、富野由悠季はガンダムを作れたのだ。人間を不幸に陥れようとするのは、人間なのだ!だから、彼らの作品には救いがあった。人間と社会がよくなれば不幸の淵にいる人間を救えるかもしれない。
だが、近年の作品はそれを描くことを徹底的に拒絶し、目の届く範囲のことだけに悩む「普通の」人間を主人公にしてきた。良くも悪くも平和な時代になったからであり、大きな不自由はなく育ち中流程度の幸せをつかんだと考える人間が大半を占めるようになったからである。
だが、ひとたびそれが崩れたらどうなるか。バーテックスより恐ろしく、また身近な形で牙をむくというのは、皮肉にも、いや、意図的に本作では隠れるようにして描かれている。これを見て泣いている人間も、皆見殺しにする大赦側の人間なのだということだ。
だからこそ私は本作が許せない。
本作には、我々が改心する余地がなく罪の意識に浸るしかないのだ。だからこそ泣くための効果が表れる。少女の運命でなく、無力な自分に泣くのだ。
勝手なものである。我々の先祖が何を思ってきて、社会がどう変わってきたのか。神に屈してあきらめるなど、まさに進歩の歴史への冒涜だ。
泣きたい人間は勝手に泣けばよい。それよりも我々がやらねばならないのは、現実で苦しむ人間を一人でも減らすことである。
そしてそのための示唆が一つも含まれていないことが、私がこの手の作品に感じる最大の怒りである。打ちのめされるからこそ、あきらめてはならないのである。