yuugetu さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
老舗制作会社とベテランスタッフの底力を感じられる良作
2016年10月~2017年6月放送。全38話。
子どもの頃からプロレスを見ていたという知人に勧められて途中から視聴開始。私はプロレスは全く知らずタイガーマスクという作品にもはじめて触れましたが、ストーリーもプロレスシーンも、この作品のみでも充分楽しめるものになっていたと思います。
老舗制作会社とベテランのメインスタッフの底力を感じられる作品で、絵柄・演出・雰囲気は少しレトロ。地味ですが好きな人は好きだと思います。
本筋はシリアスですが、3クールの長い話数の中で息抜き回やギャグ回もありバラエティに富んだ楽しさがありました。
全体的に堅実さや細やかさ、描写の積み重ねの巧みさが感じられたのは監督の小村さんのおかげでしょうか。個人的にはプリキュアSSに同じ印象を持っています。
虎の穴などの設定は非現実的で突っ込みどころはあるものの、ストーリー面では千葉克彦さんのベテランらしい王道で堅実な脚本・シリーズ構成が光りました。
全体通して各キャラクターのプロレスに対する想いが描かれたのが特に良かったです。
プロレスシーンはコンテ・演出・作画で個性が顕著に出ていて、それぞれの回で違う魅力がありました。
組み合うまでの過程や必殺技を仕掛ける前の攻防もきちんと演出し、上手くアニメ的な見せ方に落とし込んでいました。何をしたのか見てわかるバトルが好きなので凄く良かったです。
羽山淳一さんはじめ作画スタッフに見慣れた名前が多く、ベテランアニメーターの地力を改めて感じました。
マットの音もリアルで音響にこだわっていたように感じます。
難点は見ていて痛そうなこと。…格闘技とかってリアルだと痛そうでつらいのでやっぱりアニメで見るのがいいなw
【テーマについて】
{netabare}
初代は死人が何人も出るようなハードな展開だったようですが、本作はプロレスの楽しさやプロレスに対する情熱に帰結する物語となっています。
ナオトは何人ものレスラーとの交流で、タクマは再起不能になりかねないほどの大怪我を乗り越えることで、プロレスが好きという気持ちを取り戻す描写があるため復讐劇のみで終わらなかった所が特に良かったです。
復讐を描くだけならタクマがオーディンと仲良くなることもなかったでしょうし、ナオトがプロレスラーになった背景をああいった設定にはしなかったはずです。
ナオトもタクマもGWMに一時期所属していたからこそ、自分の気持ちを客観視できたのかも。
タイガーが13話でイエローデビルの覆面を剥ぎ取ったのは復讐心からです。けれども最後のザ・サード戦でマスクに手をかけなかったのは、復讐心のみで戦ったわけではなく目指すプロレスの在り方の違いや信念のぶつかり合いになっていたからだと感じました。
もう一つ一貫して描かれたのがマスクマンの誇りです。
本編の中で「マスクの中身が変わるのはよくあること」とミスXは幾度か口にしています。
現実ではマスクは覆面レスラーのアイデンティティーなのだそうで、それを逆手に取り、ナオトとタクマが二人ともタイガーマスクWとして同じ信念を共有して新たなタイガーとなる展開はとても良かったです。
ナオト自身も、マスクを失った時には「ザ・サードとはタイガーマスクとして戦いたかった」という趣旨の発言をしているので、ずっとタイガーマスクとしての誇りも持っていたと思います。
それに対して逆の描写をされたのがケビンです。
彼は運営の都合で幾度かマスクを変えたために、マスクマンとしてのプライドやアイデンティティーを持つことが出来なかった。最後にリングの上でマスクを脱ぎ捨てたのは無理もなかったのではないでしょうか。(あのシーン描写としてはレスラーとしてリングで向き合ったタクマに対する「俺はお前の友達だ」という主張なんでしょうけど。)
{/netabare}
【キャラクターについて】
{netabare}
主人公二人もそうですが、落ち着いた等身大のキャラクターが多くて感情移入もしやすくとても見やすかったです。脚本家が違ってもキャラクターがぶれることがありませんでした。
若松龍は新日勢で唯一のオリジナルキャラクターで、演出のためにレスラーとしては噛ませになることが多く、恋にも全く脈がなくてちょっと可哀想だったかな。ケビンにも言えることですが、この二人はナオトやタクマとの人間ドラマでこそ輝くよう作られていました。
メタ的には新日の実在レスラーキャラや過去作のオマージュキャラをあまり粗末に扱うことは出来ない以上、仕方ない面もありましたね。
ふくわらマスクは本当に良いキャラクターでした。観客を楽しませることを矜持とし、勝っても負けても愛されるレスラーはこの作品には必要で、それが虎の穴出身の実力者であったのもテーマに合致していて良かったと思います。
{/netabare}
【最終話と女性キャラについて】
{netabare}
本編終了後のスペシャルステージみたいな内容ながら、本作で積み重ねてきたことがこの回でコンパクトに描写されています。レスラー、主催者、医療従事者、記者それぞれの「プロレスが好き」という気持ちをしっかり描いた楽しい回になっています。
本作で一番応援していた春奈が恋もプロレスもいい方向に向かいそうなのが本当に良かったです。…是非ともお母さんとおじさんに許しをもらう続編とか見たいですね。作画や演出が一番今風だったし、こんな感じの楽しい話をもう一話だけ見たいw
最終話迎えたらミスXが一番好きな女性キャラになってましたw 中間管理職の苦労を見せはじめたあたりからこの人なんか可愛くない?ってw
見直して思ったのは、GWMで若手選手を育てる中で実現したいプロレスの形が変わったのだろうということ。ショーの運営や、タイガー・ザ・ダーク(タクマ)のプロモーションに試行錯誤していると感じるシーンが時折あったりもして、ドライな表情に隠していても、プロレスに対する情熱があったのだと素直に思えました。本当に美味しいキャラでしたね。
医療従事者として複雑な思いを抱えながらも、ルリ子がリングドクターを続けているのが個人的には嬉しかったです。
ナオトは「誰かに生きる力を与えるようなレスラーになりたい」という最初の夢をこういう形で叶えたんですね。ルリ子にとってナオトは恋愛対象ではなかったけれど、タイガーマスクは間違いなくヒーローでした。
来間さんはタクマとルリ子がいい感じになってるのがわかってから乙女な描写が減ってしまったのが少し残念だったかもw でも記者としての情熱は失わずに頑張っているのが良かったですね。解説席に座れるって相当詳しいんだなあ…
最終話ゲストキャラのマザーデビルも渋くて好きです。場を盛り上げるために会見時からヒールを演じたり、スプリンガーとの試合でも観客が盛り上がっていないと思えば勝利が確実だった絞め技から大技の連発に切り替えるなど、ベテランレスラーとしてとても格好良かったです。
{/netabare}
本作を気に入った人には公式サイトの濃いインタビュー記事もぜひ読んでほしいですね。
関わった人たちのこだわりも感じられますし、実在のレスラーとアニメ内の同名キャラクターは違うということもきちんとアピールしています。個人的にはそういうフォローがあると安心して見られるのでとても有難かったです。
プロレスファンからは割と好意的に受け入れられているようですし、私はプロレスには詳しくはないけれど、スポーツや競技へのリスペクトに近いものは感じたのでとても好きですね。
(2017.7.20)