MLK さんの感想・評価
2.1
物語 : 1.0
作画 : 3.0
声優 : 2.0
音楽 : 3.0
キャラ : 1.5
状態:途中で断念した
無題
ロボットアニメというものは、ロボットを出す以上の制約がなく物語部分を比較的自由に作れるために、ある種監督の実験場として様々なパターンの物語が作られてきた。ロボットアニメに独特の名作が多いのは、おもちゃ会社のうるさい注文をかいくぐってきた先人たちの努力の賜物に他ならない。いわば、ロボットアニメは「なんでもあり」であり、同時にその先鋭さゆえに時代を投影するものであった。その点で、この作品は見事にその点を受け継いでいる。しかし、反映しているのは最近のアニメの病理だ。
完全無欠で容姿端麗な主人公、その礼賛機関と化した周辺人物、どうでもいい敵、命のやり取りをしていると思えないほど緊迫感に欠けた戦闘、設定の無理を押し通すための異世界設定、オタク知識スゲーな転生設定。何もかもが主人公と書き手にとってストレスフリーに設定された歪な世界は、あまりの勝手さに見ているこっちにとってはストレスがたまる一方だ。おそらく、低評価を承知でこの文面を読んでくれている方ならば、特にライトノベル原作にありがちなこの違和感に共感していただけるだろう。
最近ではあふれかえる異世界転生物にブレーキをかける動きが広まっているようだが、問題はそんなことではない。転生をネットゲームにおけるチートに、異世界をサイバーパンクな世界観に変えてしまえば構造的には同じことができるし、実際にやっている作品が大人気だ。問題はもっと根深く、主人公の世界に広がりを作らない限り、この課題は解決されない。
例えば、この作品は多くのロボットアニメのご多分に漏れず、襲い来る敵を倒すヒーロー物としての要素も含む。なにせこの原作の出版レーベルは「ヒーロー文庫」だ。それ自体は、スーパー系のマジンガーZも、リアル系のガンダムも、はたまたウルトラマンも仮面ライダーも変わらない。しかし、このアニメには敵を倒した時の爽快感はない。それは、主人公の身内でない、暴力に蹂躙されるしかない人間の存在が欠けているからだ。
見返りを求めずに困っている人間を助ける、その一点に我々は英雄的爽快感を覚える。いわばこれは義侠心であり、その登場人物の持つ優しさの具現化でもある。しかしこの主人公は自分のやりたいことと、あとはせいぜい身内や利益になりそうな人間のことしか考えていない。私欲と身内のためにしか動かない。これを政治家に置き換えれば、たちまち悪徳議員の完成だ。(ちなみに、困っている人間を助ける精神を政治家に体現させれば立派な仁君になるので、決して政治家という言葉のイメージのせいでないことを述べておく)
この作品に限らず、外見と行儀はいいが実は嫌な奴。これが最近の主人公のトレンドであるが、これはおそらく多くの良心的作者の意図と違っている。作者としては不可能なんて何もない完全無欠なヒーローのつもりなのだろう。それゆえに、主人公の世界は主人公に合わせて完全に制御されたもので埋め尽くされる。しかしヒーローとは、主人公の礼賛者と敵しかいない、狭い世界の中では到底描写できないものなのである。
もっとも、このトレンドには社会的背景を見出せないわけではない。将来の希望を持ちにくい競争社会の中で、我々は常に優秀でないこと、幸福でないことにおびえながら生きている。これが、自分の運命を完璧に制御できる、ひいては幸福を宿命づけられた人間に憧れる所以だろう。
しかしそれで幸福にできるのは結局のところ自分だけであり、視聴者たる我々は、一人の完璧な人間がプログラム通り幸せになるところを見せられることになる。これが、この手の作品のつまらない原因である。
良い作品とは、見た者の心を動かすものである。そして感動は予定調和の中から生まれるものではない。計算できない、理解できない偶然や異物。これを排している限り、アニメは消費物以下の存在として、消えゆく他に無い。