岬ヶ丘 さんの感想・評価
3.7
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
創られた者と、創り続ける者の物語
まず人間が創造したフィクションの物語の登場人物に各々の意思があり、彼らが現実世界に現れたら世界はどうなるだろうというコンセプトは面白い。第1話の戦闘シーンには圧倒され、その後も戦闘は高いクオリティーだったが、この作品は会話劇に分類される方がしっくりくる。西尾維新作品とは少し違うが、言葉の力が全体的に強い印象の作品。
登場人物は現界したキャラクターの個性が強く、主人公たち現実世界の人間は当初完全に巻き込まれる形で物語の幕は開く。序盤は現界したキャラの登場や、キャラ同士の戦闘といった点に注目しがちで、終始主人公の印象は薄い。しかし途中からの創作者、つまり人間サイドにもスポットが当たる展開は面白い。創造者と被創造物が協力しアルタイルに立ち向かっていく姿は、本作が被創造物だけで紡がれる作品ではないことを示している。物語の創り手側、特にプロクリエーターならではの感情心理・葛藤も丁寧に描いている。
ただキャラクターが少々難しいセリフ回しをするので、会話劇にかなり神経を注いでしまう。要約すればそんなに難しいことを言っているようでもないのでテンポ感も気になった。この辺りは評価の別れるポイントか。しかし脚本作家の言葉の力、とりわけ語彙には目を見張るものがあり、それが本作の訴えかけるメッセージの強い説得力になっているとは思う。
関連して物語のテンポについて。軍服の姫君の創作者と主人公との間に何らかの関係があることは早い段階から含ませているものの、1クール最後まで引っ張ったのはやり過ぎかなと感じた。会話劇とテンポは切っても切れない関係にあると思うし、本作は全体的にテンポが遅いというより終始硬かった印象が強い。
もう一つのポイントは主人公の過去の行い、そして現在の言動を理解し共感できるかだと思う。プロクリエーターの周囲にいる主人公は、どうしても幼くて拙く見えてしまう点は否めない。そんな彼も成長の兆しは見せていくのだが、彼の言動にやや混乱させられる点も見受けられたのが少々気になる。
この作品は「創造主」である人間側と、「被創造物」であるキャラクターの両輪がうまくかみ合い、そこに周囲の承認が生まれてこそ成立する物語。その片翼である人間・クリエーター側を代表する主人公をきちんと受け入れてあげれるかが評価の分かれ目か。個人的には松原の方が何かと言動に共感できて、人間味に溢れ好感のもてる人物だったと思う。主人公も人間味はあるのだが、あまり好感が持てない点がやや残念だった。
その他全体的な画や音楽はトップレベル。総集編・特番2回と2クール作品としては話数的には少なかったが、それでも一定レベルの画を毎回描けるクオリティーは素晴らしい。全体的に情報量の多い作品だったので処理に戸惑うこともあったが、溢れ出る情報やメッセージを凝縮し懸命に伝えようとするクリエーターの意志を感じることができた。
本作は今何かを創造している人や、これから何かを創造するかもしれない人の背中を押す、応援歌のような一作だと思う。