ガムンダ さんの感想・評価

5.0
物語 : 5.0 作画 : 5.0 声優 : 5.0 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態：観終わった

じわじわ評価される作品じゃないでしょうか

2時間のアニメ映画です。
広島に暮らす、普通の女性の物語。戦前～戦中、終戦までを描いた作品。
時代が普通ではなかったのでこの様なドラマになりました。

似た作品に「火垂るの墓」があります。
しかしあの作品は戦争を知らない私らには殆ど異次元の出来事にしか感じられませんでした。
また、どこまでも絶望しかない「火垂るの墓」に比べ、こちらは最後は希望と言うか熱いものがこみ上げてきます。

思えば劇場公開では「火垂るの墓」はかの「となりのトトロ」と同時上映でした。
この作品は「火垂るの墓」の戦争描写と「トトロ」のファンシーさを併せ持った作品とでも言いましょうか。
そういう映画なんです。

しかし子供でもわかる「火垂るの墓」「トトロ」に対してこちらは少し大人向けです。
物語を追うのも笑うのにもキュンとするのにも大人のウィットが要求されます。

戦争を知っている世代からは綺麗ごとなんでしょう。
実際は「火垂るの墓」の様に絶望しかなかったし、戦後のどさくさなんて、ある意味戦中よりも地獄だったでしょう。
でも私は現代においてはこれで良いと思うんです。
「火垂るの墓」レビューにも書きましたが、今それを語って何になるんですか。

この作品は何かになる気がするんです。
私はこの手の戦争作品をあまり評価しませんが、この作品は別です。
冒頭書きました。この作品はたまたま戦争の時代だったただの人間のドラマだからです。
戦争圧しじゃない、悲惨の押し売りじゃない、とても良い人間ドラマでした。


ネタバレではありませんが、もっと長々語りたいので閉じておきます。
{netabare}
この映画の何が凄いか。
日常からシームレスに戦火にまみれる過程を生々しく伝えようと試みた作品はいくつもありますが、その点では最も成功した作品だと思います。
演出が巧みであるし、主人公を演じた能年玲奈さんの演技が凄すぎます。
普段、声優を評価する事を放棄している私ですが、こう言うのを見せられるとなんと言って良いのか…。
いや声優さんは声優さんで本当に凄いと思うんです。好きな声優さんも何人も居るし。
でもこう、「スカイクロラ」然り、「謎の彼女Ｘ」然り、女優さんの演じる女性キャラは別格の魅力を漂わせます。
こんな事書いたら怒られそうですが、アニメのキャラとは記号だし、声優の仕事もキャラの記号化だしそうあるべきだと思うんです。
しかし、女優の演じるキャラはその範疇からいとも簡単に逸脱します。
くどい様ですが、何でもかんでも女優を起用すれば良いと言うものでもありません。やるならそれ相応の覚悟と言うか、明確な意図がないと可笑しな事になります。

パステル調の淡い画風もまた巧みです。
爆撃のシーンで水彩画を描くような演出は凄かったです。
爆撃など、当時の人にとっても尋常ではない経験であるに違いありません。
イマイチ現実感の無い感覚が余計にリアリティを感じさせます。

それらが相まって、感情移入と臨場感が凄い作品でした。
{/netabare}

これは後世に残すべき傑作だと思います。