もうすぐバーミアン さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
示唆に富んだエモーショナルな作品
実にエモーショナルで胸が締め付けられる作品だった。
5人の仲の良い男女たちは、誰とも深く付き合うことができない孤独な少年と出会うことで、自分と他者との関係について考え始めるようになる。沖倉駆は彼らにとって、外部からきた敵、ウイルスとして現れる。彼の登場によって、5人は「変化」を余儀なくされるからだ。
物語が進むに連れて、それまで絶妙な均衡を保っていた5人のバランスが徐々に崩れていく。それはある意味では悲劇なのかもしれないが、虚構の「親しさ」から解放されるチャンスでもあるのだ。6人はお互いの体験や行動を共有することで、他者の視点で相手を理解しようと模索し始める。読書やランニング、登山によって。「未来の欠片」と呼ばれる能力によって。
止め絵による聴覚と視覚のズレ、スプリットスクリーンやワイプによる「視点」の多様化、引用される文学、「動くニワトリを模写する」ことの難しさ、哲学者の名前、だまし絵、孤独の象徴としての雪…多くのメタファーと示唆に富む演出によって物語は伝えるべきメッセージを無駄なく簡潔にまとめ上げていく。心地よいテンポで交わされる何気ない会話すら、実は作品のテーマと密接にリンクしている。いささか表現主義的であり、セリフで全てが説明される訳ではないので(というかセリフで説明できないことを説明しようとしているから表現主義的なのだ)、受け手は作品と能動的に向き合うことを強いられる。それが今作を「難解」なものに見せている要因なのかもしれない。しかし、まさに「能動的に向き合う」ことのみが、他者を、そして自分を唯一理解し得る術なのである。
「どんなに親しい友人であろうと、家族であろうと、結局は誰も他人のことなど本当の意味では理解し得ないのだ」という諦観を前提としながら、それでももしかしたら、いつか何かの拍子に繋がり合える瞬間が来るのかもしれない、という微かな期待を『グラスリップ』は感じさせてくれる。12話から13話にかけての、2人が、そして街全体がひとときだけ繋がり合うクライマックスの高揚感は凄まじいものだ。未来なんて見えるわけがないし、明日のことなど誰にもわからないけど、きっと全て未来の自分が解決してくれるのだ。