狗が身 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
まさに亡霊のような曖昧さ…。
本作はこれまでと一風変わって、人工頭脳や日本の教育機関や価値観の批判といった、社会性の強いテーマを持った作品となっている。
テーマ自体の新鮮味に加えて、19世紀末のロンドンを舞台にした、切り裂きジャック絡みのストーリー展開、コクーンによる仮想空間というSF色強めの舞台には胸が躍る。
ただ、全体的に中途半端なイメージが拭えず、視聴後あまりスッキリとはしなかった…。
本作は珍しいことに、殺人事件の犯人が誰なのかが最初から視聴者に明らかにされている。
ということで、その動機に興味がいくように仕向けられている。
そして、その動機には先入観で人を判断してしまいがちな我々への忠告というか、批判的な脚本家の主張が含まれていた。
本作の事件の犯人は、自身のルーツ――先祖の正体を明かされることを恐れて犯行に至った。殺人鬼の子孫というだけで、社会的な地位が失われることを彼は恐れたのだ。
実際に僕らがもし、殺人犯を親にもつ人物に遭遇したら、どう思うだろう?
僕らがもし、悪徳弁護士や政治家の子供を遠巻きに見た時、その先入観を抜きにしてその人たちのことを見れただろうか?
だけどそう考えられる一方で、そう見られてしまっても仕方がないとも言える。
シンドラー社長は理由はどうあれ、まだ10歳の子供にハードワークを強いて自殺に至るまで精神を追い詰めた上に秘密を明かされることを恐れて明確な殺意をもって人を殺害しているし、将来の社会を担う裕福な家庭の二世三世の子供らは礼儀しらずで親の七光りに胡座をかいている。
ここで引っかかるのが、結局のところ本作は、社会派的なメッセージとしてどの層を批判しているのか、ということ。
工藤優作の言うように、社会に対して戦おうとしなかったシンドラー社長?
それとも、将来を背負って背負う二世三世へ自覚を促すもの?
あるいは、きちんと親として躾をしない親に対する警告?
でも、どの層への主張にしてもなんだか中途半端なんだよな。
シンドラー社長は犯行を暴かれて観念しただけで今までの行いを反省したような描写はなく、ノアズアークの言葉によって権力にふんぞりかえって子供を甘やかしてきた親や祖父が後悔した、というわけでもない。
二世三世の子供らの描写も甘く、よりによって作中で一番の問題児だった諸星がなんの精神的成長もなかったことが痛い。
ヒロキを通して日本の教育体制を非難するにしても、非難されていたという回想以上の意味がなく、どのテーマも問題提議以上の強さがないんだ。
せっかく、コナンの秘密道具を封印するという冒険に出たのだから、この辺りのテーマとメッセージを、ミステリー要素の高いストーリーに絡ませて昇華することは出来なかったのだろうか…。
切り裂きジャックやモリアーティ教授との絡みといったメインストリーム自体は非常に面白かったものの、勿体なさゆえに欲を言わずにはいられない