「月がきれい(TVアニメ動画)」

総合得点
94.0
感想・評価
1809
棚に入れた
7624
ランキング
8
★★★★☆ 4.0 (1809)
物語
4.1
作画
4.0
声優
4.0
音楽
4.0
キャラ
4.0

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ネタバレ

どらむろ さんの感想・評価

★★★★★ 4.6
物語 : 5.0 作画 : 4.5 声優 : 4.5 音楽 : 4.5 キャラ : 4.5 状態:観終わった

SNSの時代性と、初恋の瑞々しさの普遍性。1クールのジュブナイルラブコメならではの良さが光る傑作。

中学三年生の初恋を繊細かつ力強く描いた、オリジナルアニメ全12話。
スマートフォンのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が日常に馴染んだ2010年代後半の時代性を背景に、ピュアで微笑ましい初恋や思春期の丁寧な描写は、時代を超え得る普遍性があります。
…とにかく。圧倒的に、微笑ましい!身悶えしたくなる程ピュア!
それでいて、等身大の現実感も絶妙。適度にハラハラさせつつ、不快さは殆どない。
それと「エンタメ的な面白さ」も完備しているのが絶賛の理由です。
(秒速5センチメートルより、君の名はの方を好むタイプ故)

特筆すべきは、本作が「1クール30分(23分)アニメ」である事。
私の記憶が確かならば「1クールのジュブナイルラブコメ」史上では、本作が最高峰です。(他にtrue tearsとか)
各話ごとに盛り上がり、次回に繋いでいく醍醐味は、数時間の劇場アニメには無い良さ。
歴代「時をかける少女」「秒速5センチメートル」「たまこラブストーリー」等の名作はありますが、いずれも劇場作品であり、1クールTVアニメの枠内では、匹敵する作品は中々無いです。

{netabare}『物語』
高校受験を控えた中学3年生の安曇小太郎(あずみ・こたろう。通称「ハネテル君」)は小説家志望で太宰治を引用したがる中二病少年。
クラスメートの陸上部の水野茜(みずの・あかね)と、ふとしたきっかけで、惹かれ合っていく…
ふたりはスマートフォンの通信アプリ「LINE(ライン)」のやり取りで、ぎこちなくも微笑ましい初恋を育んでいく…
小太郎が祭りの準備がんばる等、川越という舞台の魅力も、ジュブナイルに一役買っている。

あぁ^~ほほえましいんじゃあぁ^~
太宰作品引用で綴る、テレ隠しな心情描写も、文学的情緒…と見せてその実、中二病っぽい微笑ましさが。
貴重なジャンル、ジュブナイル作品で、ここまであざとくピュアラブコメをやってくれるとは!
毎話、右肩上がりでピュア度ほほえま度が増していく。
もどかしく、でも甘酸っぱい初恋で、視聴中呻きが止まらん!

不器用で危なっかしくても、力強く進展していくので、多くのラブコメにありがちな、ウジウジした冗長さを微塵も感じさせぬのが魅力。
(危なっかしいな~、これは中々進展すまい……何ィ!ハネテル君そこで行ったァァ!?)
毎話、小さく波乱やすれ違いの紆余曲折でハラハラドキドキさせられつつ、次話への引きで右肩上がりに盛り上がる、こういう醍醐味は「連続30分番組」なればこそ。
その波乱やドキドキ感も、過度なシリアスでストレスにならない絶妙な塩梅。
女子あるある?の関係性から、茜ちゃんイジメられちゃうか!?とハラハラするシーンも、絶妙に不快な展開は回避してたり。
小太郎と茜それぞれに恋のライバル登場で(これはマズイぞ…どうなってしまうんだ!?)と終始揺さぶられつつ、終わってみれば絶対の安心感のあるピュアなベストカップルだったという。
恋のライバル、特に茜の親友の千夏ちゃんのトリックスターぶりと、いじらしいドラマもハラハラドキドキ。
ジュブナイル抜きにラブコメディーとしても終始飽きさせず、理想的でした。

本作もう一つの見所は、誰しもが過去に思い当たりそうな、瑞々しい思春期あるある描写です。
小太郎が昂る気持ちを抑えられず、自室の電球の紐でボクシングしたり、あぁ~、これやったなぁと身悶えたくなる。
小太郎と茜が偶然、家族でファミレスで同席したエピソードも秀逸、あぁ~これは堪らん気恥ずかしさだろうな~、と。
小太郎が、気になる女の子の手前、背伸びしてブラックコーヒー飲む傍ら、小太郎父は飄々と砂糖入れる一幕も地味に良かった。
大人になろうと背伸びしなくなるのが大人故。これが若さか…。
以降も随所に思春期ネタを入れ、それが瑞々しいジュブナイルラブコメに一層の華を添えている。

ラブコメ以外でも、高校受験という進路選択を控えた時期に、小説家を目指す小太郎の青春劇としても非常に良い。
夢と現実の狭間、若い情動、親との関係…
揺さぶられつつも過度なシリアスにはならぬギリギリの展開、これも終盤のピュアラブコメの山場に繋がっていく。
特に親との関係でもジーンと来る、理想的。

…本編後のCパートのコメディーでも、秀逸なあるあるネタ連発。
このCパートも見所で、Cパートだけで短編アニメにしても十分すぎる面白さ。
精神的にお子ちゃまな男子と、タテマエ本音駆使するあざとい女子の対比が面白かった(この年齢帯では女子には勝てんな…)w
Cパートはコメディーとしても良い上に、本編ドラマもしっかり補足しているのが上手いです。
こういう構成も、やはり劇場やOVAには無い、テレビアニメならではの良さかも。

本作の一番の特徴であろう、SNSツールに馴染んだ世代の恋愛模様も。
文面からも、微笑ましさが伝わってきて身悶えそう。
離れていても、夜中でも、リアルタイムでやり取り出来る時代。
それでも、本当の気持ちや関係は、会って育まないと伝わらぬのも、普遍的。
…なんですが。本作が一線を画すのは、「SNSをネガティブに捉えていない」事。
「SNS如きじゃ真実の気持ちは伝わらんぞ」と押し付けるオールドタイプの陳腐な思想なぞ関係ない。
現代っ子なふたりの初恋は、たしかにSNSが育んだのだから。
新時代のコミュニケーションの在り方を肯定的に描きつつ、古典的なジュブナイルラブコメの普遍性に昇華していく。
ここが本作が名作たり得る着眼点だと思います。
もし何十、何百年後、SNSが過去の遺物と化す時代が来たとしても、本作「月がきれい」はきっと、色褪せない。
普遍性を持ちうる事は、名作の条件だと思う。(絶賛しまくっているが、時期尚早は承知)
…SNS故のすれ違いや葛藤もハラハラするドラマにしている為、SNS礼賛でもないバランス感覚が良い。
ふたりはぎこちなく、何度も顔を合わせ、何度もメールし合い、その他愛のない一行一行が、かけがえのない恋を育んだのです。
終盤の山場で、旅立つ茜にメールしようとして…自分の足で走れメロスの如く駆けたシーンは王道的な共感を呼ぶ一方、茜に最高の形で気持ちが伝わったのが、ネット投稿小説だったのも素晴らしい。
茜ちゃんが泣くシーンは涙腺崩壊でした…。


総じて、1クールのジュブナイルラブコメとして、非の打ちどころが無いです。
ハラハラさせつつ過度なストレスが掛からず終始飽きさせず右肩上がり。
エンタメ的に視聴が楽しかったのも重要で、アニメはいかに高尚でも、観てて楽しいに越したことはない、と常々思うので。
その点において新海誠監督の「君の名は」とは方向性違えど、エンタメ性も完備している点において匹敵します。

…強いて、強いて難を挙げるならば。
Cパートの一部で、友人カップルがラブホに行く話は、中学生らしくないかな~?
それと、ラストの締め、ぐうの音も出ない完璧なハッピーエンドは最高ではあるのですが…その後を将来に渡って描き過ぎるのは、若干、ほんとに若干ですが、興醒めかも。
遠距離恋愛でもちゃんと成就したよ!と仄めかしてくれるだけでも十二分にハッピーエンド、その方が好みだった。
とはいえ!本作の評価下げる程ではないです。



『作画』
ハヤカワ文庫JAのSF小説の表紙を手掛ける、イラストレーターのloundraw氏によるキャラデザ、ジュブナイル作品に相応しい上に、しっかりと萌えも感じさせる可愛さ十分。
奥ゆかしい美少女な茜ちゃん実に好みでした。赤面する等のあざとさもポイント高い。
川越の街や、学校を、美しくノスタルジックに描いた風景も素晴らしい。
作画クオリティーは完璧ではなく、若干崩れたり、CGと人物が噛み合わない場面も散見されるも、評価下げる程ではない。
劇場版の名作たちには当然及ばない、されど、1クール番組としては、十分すぎるでしょう。
…メタ的な戯言かもですが、若干噛み合わぬCG使用もまた、2017年というこの時代に作られた作品特有の味わい、と後世に映る(かも)?


『声優』
小太郎役の千葉翔也さんは弱冠21歳ながら結構ベテラン、ジュブナイル作品らしい等身大の演技非常に良かったです。
茜役の小原好美さんも、奥ゆかしく瑞々しい好演、どちらも深夜アニメらしくないジュブナイル感と、アニメ好きが聴いても違和感少ない絶妙な塩梅。
若手の演技が軒並み文句なし、親世代も豪華で深みがある。
千夏役の村川梨衣さんも、千夏の魅力存分に感じました。こういう村川さん良い!

歌も担当している東山奈央さんは、美人教師役。
「きんいろモザイク」では先生困らせる問題児だった、なんか面白いです。


『音楽』
OPもEDも挿入歌も、東山奈央さんづくし!透明感ある美声ステキです。
挿入歌はベストマッチして盛り上がるシーンもあれば、やや余韻の邪魔なシーンも…
ED「月がきれい」が最高でした。最終話の感動は、あざとい!


『キャラ』
主人公もヒロインも同級生たちも大人も魅力的で層が分厚く、文句なし。

主人公のハネテル君こと安曇小太郎君、内向的な文学少年…と思わせて、意外とやる!
多くのラブコメ主人公だと足踏みしそうな状況で、一歩踏み出すのがハネテル君の強さ、このお陰で、何度も(おお~!そこで行くか!?)と盛り上がりました。
文学中二病少年の未熟さと一途さ、若さの全てが、好感の持てる主人公でした。

ヒロイン・水野茜ちゃん、かわいい!
清楚なスポーツ美少女、平然とジャージ姿も可愛い、リアルに奥ゆかしい性格がかわいい、幼い嫉妬もいじらしい、地味だけど、こりゃあ男子に好かれるタイプですよ。
奥ゆかしいけれど、中学生らしい瑞々しい感情も可愛い、あと妹キャラなのも可愛い。
…とにかくヒロインが可愛い(萌えを感じる)のはエンタメ的に大変重要。

恋愛劇で波乱巻き起こす、西尾千夏ちゃんの魅力もヒケを取らない。
ボーイッシュなスポーツ美少女、何気に策士!腹黒い…これはハネテル君を寝取られるか!?とハラハラ感が。
策士だけど、茜との友情は揺らがなかった良い子、終盤の立役者でした。
策士といっても、ちゃんと等身大の子供らしい。
負けヒロイン史上でも印象に残る子でした。

同級生たちが男女ともに良いキャラ多く、青春あるあるを演出。
Cパート寸劇で個別事情が伝わり、増々愛着が。
特に、見た目は一番可愛いけれど、性格が一番黒かった今津美羽ちゃんのインパクトが。
Cパート…こわい!でもかわいい。
本編では全く目ただない地味な眼鏡女子・田中さくらちゃんも良いキャラしていた、わたモテのもこっちみたい。
まろん(本名)も小太郎の良き友人としてのナイスアシスト、東山もとい涼子先生へのアタックなど、彼一人とっても主役足り得る。

東山先生もとい涼子先生は普通の美人教師…と思いきや、Cパートの生徒との禁断とは…!
主題歌挿入歌は全部涼子先生が歌ってたんですねぇ。

この他、小太郎に良きアドバイスくれる古本屋のお兄さんなど、大人の存在感も素晴らしい。
一見無理解な母親に思えた、小太郎母の、本当の愛情…これはジーンと来ますよ…
一見呑気な父も、息子の夢応援してくれる理想の親だったり、親の魅力も高いです。
子供主役で大人も疎かに描かないアニメは良作率高い、本作は名作でした。{/netabare}

投稿 : 2017/07/04
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サンキュー:

49

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