雀犬 さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
時代は希望を求めている
2016年8月公開の劇場アニメ作品。
ネタバレありのレビューです。
僕は公開初日に観に行きました。
まさかこんな記録的なメガヒットになるとは思わなかったです。
先日Blu-Rayでもう一度見た感想は
「あれ、こんなに良かったっけ?」
この1年色々と深夜アニメを見てきたので、
かえって良さに気付けるようになったのかもしれないですね。
まず一番に挙げられる良い点は作画。新海監督と言えば風景。
皆さんが「君の名は。」で一番好きなシーンはどこですか?
かたわれ時か、ラストの階段、2人が出逢うシーンが人気ではないかと思います。
僕が一番印象に残ったのは瀧と入れ替わった三葉がマンションのドアを開け、
初めての東京が目の前に広がるシーンです。
PANを使ってじっくりと見せる田舎の女子高生の憧れとして表現された東京は、
人工美でありながらはっとするほど美しい。
映画の導入部で糸守町の豊かな自然を実写さながらの美しさで見せておいてから、
この演出を持ってくるのは背景技術に絶対の自信がなければできないことでしょう。
次に音楽について。
劇中で使われるRADの曲はこの1年街の至る所で耳にしましたが
やはり映画の中で聞くのがしっくりきます。
しっかりと曲を聴かせる仕立てになっていながら、
不思議と映像とマッチしていて違和感がありません。
青春映画とロックなんて普通なかなか合わないはず。
音楽の入るタイミングもにくいですね。
最初に劇場で「なんでもないや」のイントロが流れた時、
「ああ、瀧と三葉は再会するんだ」と直感的に思いましたから。
さて問題はストーリーです。
本作のウイークポイントは都合の良い展開と、
論理的に考えるとおかしい行動が多々あるところでしょう。
ただ今回見返して、それが作品の魅力を落としていように感じなかったんですね。
「君の名は。」の裏設定はご存知でしょうか。
村に彗星が落下して壊滅するのは偶然ではありません。
糸守町は1200年周期で彗星が落ちる町で、
宮水家の一族はその厄災から村人を守るために入れ替わりの能力を使って
数年先を生きる男の子と夢を通じて交流し、そして共に村を救ってきたという設定です。
この設定は小説版に書かれているらしく映画内で明確には書かれていませんが、
ご神体の祠の壁画に彗星の絵が描かれていたり、
糸守湖が隕石湖としてできたと推測されていたりするのは設定の裏付けのようです。
ご都合主義の極みのように思われる話なのに多くの人に支持されるのは
本作が3.11の地震をモチーフにしているからではないかと思っています。
東北の地震を意識した作品であることは監督自身も語っています。
千年に一度の大災害を目の当たりにし、日本という国自体が停滞していることもあって
多くの人が「仕方ない」という無力感、閉塞感を味わったのではないかと思います。
きっと想像以上に私たちは落ち込んでいて、夢や希望を心のどこかで求めていたんじゃないかと。
こんな夢物語があってもいい、そう素直に受け入れられる時代なのだと思う。
男女の入れ替わりという大掛かりな仕掛けを打ちながら
実際の村人の救出は地道で泥臭く描いているのも重要なポイントで、
あの地震を経験して感じた共同体意識に訴えかけてきます。
「君の名は。」はこの上なくロマンチックで、希望にあふれている。
これこそ日本人がいま見たかったアニメ、見るべきアニメだったのだろう。
素晴らしい作品じゃないですか。
僕もこのアニメを支持させていだだきます。