Tenryu さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
本当に純粋なものをどれだけ私達は捨ててきただろう
個人的に内容の割に知名度が今一つと思われた良作でした。内容については他の方々の素晴らしいレビューに譲ることとして、その中でもある方のレビューが素晴らしく思えたので、自分なりに対置レビューとして自分の前掲の原因について検証を書いてみることにしました。
ここからは、ネタバレとは違う意味で作品の本質的な鑑賞に関わるのでまだ見ていない方は、まず一度他の方のレビューを参考にして素直に鑑賞されるのがいいと思います。(私のは分析評なのできっと2度見の方用です。)それでは見る気が起きないような素直になれない方は、敢えてこの先の自分のレビューを見られて判断するといいかもしれません。何にせよ一助になれたならば幸いです。
{netabare}
では、ここからは分析評になります。まずこの作品は泣アニメなのですが、設定が作為的過ぎることと作り込みに度を超えた大雑把なところがあります。大方の人はまずそれを落ち度と捉えるみたいです。多分レビューでも見ない限りそれっきりです。自分も登場人物の紹介シーンの後でアンドロイド(ギフティアという名称ですが)と思っていた本当は人のミチルの激しいツンデレぶりに「いやいや、これはもはや人なので」という内心のツッコミが後でお蔵にして観直すまで修正されないという事態に見舞われ、アンドロイドが人と見分けがつかず飲食したり、寿命が来ると暴走したりするような製品が法的認可されているという設定にゾッとして、一度お蔵に寝かせました。多分それが人間の持つ心理的浄化作用なんだと思います。それでも帰ってこれたのは名シーンとも数えられる一話の始まりの印象が自分にも心のどこかに残っていたからだと思います。フックが時間経過とともに緩和された心理的浄化作用に勝ってI'll be backが実現したんでしょうね。
音楽の例えで恐縮ですが、この作品は協和音の中に作為的に不協和音が混ざり合わされているのに気付きます。作者はこの作品を10年以上温めていたと見ました。その設定がこれほどまでに凸凹だと、何か意図があるのではと自分のような人間は勘ぐってみるわけです。感情もあり飲食してトイレにも行き冗談が通じるバックアップできない存在、それは人間です。誰かも言いましたが、アンドロイドという設定は表向きこの作品では皆無に等しいのです、ただ一つ寿命が約9年の使い捨て製品であることを除いては。人と変わらないアンドロイドを作る技術がありながら人より色んな意味で丈夫であることを期待される筈のアンドロイドが人よりもたないなんて話からして噴飯物でしたからね、では何のために作るのかと。では、何のために作るのかという問いからがこの作者の言わんとするメッセージでしょうね。
「でも、覚えておくのは一つだけ。この仕事は決して報われない。想い出を引き裂くのが私たちの仕事なので。」
作中で色々な事が矛盾しています。第5話をピークに凸凹しています。それが、視聴者を遠避けます。作品は完全には報われず、私達を何かが引き裂きます。その正体は、作者を含め私達生身の人間が抱える不純さと矛盾が源であるのだと気付けると思います。これらは作中の背景にあるものであり、直接語られたり現れたりするものではありません。ただ、知覚することもなく、純粋さに徹することの出来ない作者によって創られた人工のそういう世界に押し込められ、人間の理想と都合を押し付けられ、心は正常な分だけ人には分からないその苦しみを味わされている。プラスティック・メモリーズ、きれいなものである筈なのに、響きをプラスチック・メモリーズに変えてしまうだけでまるで安物のように扱われてしまう。アイラの気持ちに近づけた時、この作品の本当の意味が分かるような気がします。その時流す涙はきっともっと違うものになるのではないでしょうか。作者は敢えて受け入れやすい本当に純粋なものを描くのではなく、偽装された世界の中で何が本当のものであるのか、その本当に純粋なものをどれだけ私達が捨ててきているのかを描こうと苦心したのではないかと私は受け取りました。
{/netabare}