雀犬 さんの感想・評価
4.1
物語 : 2.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
そろそろ加藤恵について語ろうか
いやー参った参った。
2017春アニメで一番楽しみにしていた冴えカノ二期なんですが、
どこか茶化して見せていたゲーム作りをより真剣に描き、
blessing softwareのメンバー個々の成長にスポットを当てるような作りに変更されています。
もちろんギャグやお色気シーンは健在ですが一期よりもストーリー重視になっているのは明らかです。
そんなことされると困るんですけど。ある程度こっちも真面目にレビュー書かないといけないじゃないですか。
ゲーム制作のストーリーは小気味よく話は進むしそれなりに面白いのだけれど、
ちょっとテンションが高すぎて全体的に滑り気味な印象でした。
それに青春グラフィティと銘打っているわりに学生らしさがほとんど感じられないのがいまひとつ。
特に冬コミを終えた7話以降は気になりました。
ゲーム作りを終えた後、blessing softwareの3人は壁にぶち当たります。
倫也はディレクターとして非情になりきれない、従えるクリエイター達を成長させられない甘さを指摘され、
詩羽先輩と英梨々はアマチュアサークルに残るか
血を見る覚悟で人気ゲームのプロジェクトに参加するか選択を迫られます。
あれ?お仕事アニメでしたっけこれ。
彼らが直面しているのは一般的にはリーダーシップやキャリアアップに相当するもの。
どう考えても高校生らしくないし、語気が強いわりに説得力に欠けています。
確かに彼らは才能に溢れ、プロとして通用する技術がすでにあるのかもしれない。
だけども社会人という立場で働いた経験値が十分にあるわけではない。
にもかかわらず、プロとしてのあるべき論や精神論を口にしているから、
自分の言いたいことをキャラに語らせているだけのように感じてしまう。
そもそもこのアニメの主たる視聴者層は10代20代の学生でしょう。
クリエイターのプロ意識について熱く語られてもピンとこないと思うのだけれども。
変にシリアスな方向に話を持って行ったために設定面の歪さが露見してしまってて、
これじゃあ第0話の冒頭で詩羽先輩がおっしゃった
「ストーリーがお粗末すぎるわ 設定が適当すぎるわ」という意見も御もっとも。
丸戸さんはシナリオライターとしても作家としても成功を収めた一流のクリエイターなのだから、
言ってること自体は間違っていないんだと思う。
厳しい環境で歯を食いしばってこそ人は成長できるのだろう。
自分の言いたいことをそのままキャラの台詞として押し切るのは彼のクリエイターとしてのプライドなのかもしれない。
アニメーター達がサービスシーンをこれでもかと盛り込んで視聴者に媚びまくっている中、
原作者だけが我が道をいくのはちょっと面白い。
けれども、やはりキャラに無理な演技をさせているように感じました。
原作者が脚本家を兼ねていると絶対的な存在になり、ブレーキをかける人がいなくなるのだろうか。
僕としては二期の路線変更はあまり歓迎できるものではかったです。
一期同様ブヒブヒゲラゲラ、じゃなくて女の子がかわいくて笑えるシチュエーションコメディが見たかったんだよね。
さて!しょうもない話はこの辺にして本題に入りましょうか。
「なぜ加藤恵はこんなにも魅力的なのか」
ストーリーや設定の100万倍語る価値のあるテーマですね。うん。
サークルメンバーの成長物語としてこのアニメを評価したときの不満点を先に挙げたのだけれども、
加藤に関して振り返ってみるとどうでしょう。
画面の隅で1人スマホをいじっているようにマイペースで行動してきた彼女が、
サークルメンバーがゲーム作りに没頭していく中で初めて周囲の目を意識し、
誰かに言われるでもなくスクリプトの本を読んで勉強を始めます。
それまでのチアガール的な立場を脱却し、実際のゲーム作りに貢献できるポジションを獲得する。
そうやって周囲と打ち解け、信頼関係を築いています。
他のメンバー3人の成長がどちらかといえばクリエイターとしてのスキルアップだったのに対して、
加藤だけ「人間的成長」が描かれているのです。
さらに他のメンバーは全く高校生らしくありませんが、自分の頑張りをきちんと見てもらえてないことに腹を立てて
口を利かなくなってしまう加藤恵の態度は良くも悪くも女子高生らしく、年相応だといえます。
このようにストーリーの流れの中で彼女は特別な存在であることが強調され、
第8話の2人キャスト回でメインヒロインの座を不動のものにします。
この回は深夜アニメ史上最高の透明度の入浴シーンだと萌え豚さんの間で極めて評価が高いです。ブヒ。
だがしかし。加藤恵の魅力の本質はもっと別のところにあります。
そもそも加藤は2期が始まる前から英梨々・詩羽を差し置いてダントツの一番人気だったのである。
加藤>>詩羽>英梨々 (えりりー!)
公式の人気投票結果はないのだけれど、サイトによって5:3:2だったり7:2:1だったりする。
詩羽、英梨々の2人はまさにテンプレという感じのヒロインで、記号的な萌えを武器に視聴者を魅了する。
他の作品なら十分に主役を張れるかわいさを持っています。
それなのに地味で名前も平凡で特別な才能を持たない、
いわゆる普通の女の子の加藤が支持される理由は何なのでしょうか。
倫也は面倒くさい三次元の女性よりも、女性の良いところばかりを集めた二次元ヒロインの方が上だと考えています。
その考えが正しければ二次元ヒロインテンプレのかたまりのような英梨々・詩羽が
加藤に人気で負けるなんてありえないはずです。
ということは、そんなオタク信仰が間違っているということなんですね。
現実の女性は面倒くさくて、話もつまらなくて、時々何考えているのか分からない。
だけどもそれを余計な不純物として全て取り払ったとして、より魅力的なものになるとは必ずしも言えない。
猫みたいに気まぐれで宇宙人のように理解しがたい存在だからこそ僕たちは女の子にどうしようもなく惹かれてしまう。
そんな悲しい男の性を加藤恵というヒロインは浮き彫りにする。
ゲームサークルに気軽に参加して男の部屋に抵抗なく上がり込む。
こんなに都合の良い子は実際にはまずいない。彼女もまた幻想のヒロインであることは間違いありません。
だけども、加藤は現実の女の子にとても近い、面倒くささ、不可思議さ、気難しさ、曖昧さを持っている。
二次元と三次元のあいだ、いわば2.X次元のヒロイン。それが加藤恵なのだと思う。
(それにしても加藤がそこそこ可愛いって設定は詐欺だよな。ビジュアル面でも最上級だと思うんだけど)
blessing softwareの次回作であり、本作のタイトルでもある「冴えない彼女の育て方」。
このゲーム企画のコンセプトは次の通り。
"まるで、現実の女の子を好きになった時のような
息苦しさや、もどかしさや、ドキドキを感じられて、
ヒロインと過ごす時間そのものが貴重だって思える、
心から彼女のことを好きになれる物語"
これは加藤恵のヒロイン像そのもの。
つまり、このアニメを見る事(あるいは小説を読むこと)は
「冴えない彼女の育て方」というゲームをプレイすることとほとんど同じ体験としているのだと思います。
この物語の入れ子構造こそ、冴えカノの面白さだと言えるでしょう。
加藤は「冴えない」なんてことはなく、ステレオタイプな萌え要素など付け加える必要もなく、
そのままで至高のヒロインなのだけど当の本人、倫也はいつ気付くのでしょうか。
今のところ原作を読む予定はないし、三期以降あるのかは分からないけどできればアニメで続きを見たいところですね。