「サクラクエスト(TVアニメ動画)」

総合得点
81.8
感想・評価
942
棚に入れた
4292
ランキング
396
★★★★☆ 3.6 (942)
物語
3.5
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.5
キャラ
3.6

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ネタバレ

雀犬 さんの感想・評価

★★★★☆ 3.3
物語 : 3.0 作画 : 3.5 声優 : 3.5 音楽 : 3.5 キャラ : 3.0 状態:観終わった

サクラクエスト振り返り

【概要】
 P.A.Worksの「働く女の子シリーズ」第3弾として制作された2017年春夏2クールアニメ。全25話。就職難民の短大生、木春由乃が派遣事務所のちょっとした手違いで田舎の観光大使に就任し、廃れた観光地の再起のために奮闘する物語。

【感想】
 結論から言うとこのアニメは失敗に終わりました。売り上げ的に苦戦し、各種評価サイトでの評点もあまり高くありません。もちろん地方問題という難しいテーマに取り込んだことやP.A.Worksらしい人間ドラマを重視した作風を評価する方もいらっしゃるのですが、僕は残念な出来だったと感じました。

 お仕事アニメということで、どうしてもサクラクエストは「SHIROBAKO」「花咲くいろは」という過去のヒット作と比較される運命にありました。まずそこで観る側と作り手の間で齟齬が生じてしまったように思うのです。視聴者がお仕事アニメに求めるものは何でしょうか。働くことの第一の理由は収入を得ることですが、その目的だけでは視聴者の共感は呼び込めません。やはりプロの世界の厳しさや夢と現実の狭間で生まれる挫折や葛藤、それを乗り越えたときに得られる達成感を得ること。そして「働きがい」や「生きがい」を見つけていく様をキャラクターと一緒に共有すること。それがお仕事アニメの醍醐味ではないかと思います。

 しかしサクラクエストはそういった充実感をなかなか味わうことができませんでした。特に1クール目の展開はかなり厳しいものがあります。主人公は人違いで観光大使に就任したために歓迎ムードではなく、社会人一年生でしかも見知らぬ土地で初めての仕事をする由乃に対して観光協会の人間のぞんざいな扱いは印象が悪い。もっと手厚いサポートをしてしかるべきでしょう。一緒に町おこしを手伝ってくれる仲間たちは同性で年齢も近く由乃の心の支えになってくれます。ただ彼女たちもしおりを除いて観光客誘致に関しては素人同然で、協会に勤める男たちは頼りにならない。会長に至っては「この爺ちゃんのせいで町が廃れたんじゃないか」と思うほどに無能。

 さらに悪いことに間野山の人々は町おこしに対して無関心で非協力的。「田舎の人は親切」という幻想化された固定概念を取り払う意図があるのは分かるのですが、視聴ストレスがたまるのは事実です。右も左も分からない状況で、由乃たちはいつも矢面に立たされる。率直に申し上げて、とても若者が働きたいと思えるような職場環境ではありません。

 視聴者からしても我慢の続く展開で、由乃たちと共有できたのは働くことの充実感よりもむしろ先行きの見えない不安感と心細さ。任期は1年間と決まっているものの、ゴールがどこにあるのか今ひとつ掴めない。そして最後まで見ても彼女たちの仕事の目的が地域の平均所得を上げることなのか、人口の減少を食い止めることなのか明確ではなかったように感じました。

 そしてトドメを刺したのは第12話「マリオネットの饗宴」ではないかと思います。観光客を増やすという方向性の限界を感じさせるこの回は、各所でのアンケートの結果を見ると全25話で一番評判が悪い。なんとこの回で今まで観光客のためのイベントを開催し、地道にコツコツ続けてきた活動を否定してしまう。1クール目の最終話だったため、皮肉にも「キリが良いのでここで切った」という方が多かったのではないでしょうか。

 ストーリーの構成としてはここで仕切り直しを行い、2クール目からは土地に根差した町おこしへと方向転換を行います。つまりテーマ自体を観光業の振興から地域再生へと変えてしまうということです。確かに町おこしの在り方としては正しい。でも観光大使が、観光客を増やすための活動を間違っていたと切り捨てるのはいかがなものでしょうか。 せめてイベントは表面的な成功を納めた上で、さらに高みを目指してステップアップするような見せ方をした方が良かったのではないかと思います。これなら別に後半の内容を1クールにまとめても良かったのではと感じてしまう。

 もう一つの問題は、「お仕事アニメ」というのは一種の擬態で本当は地方創生が主題のドキュメンタリーアニメだったというのを1クールの終わりに至るまで伏せていたことだと思います。裏切られたように感じた視聴者も多かったはず。

 さらに、地方創生をテーマに掲げた作品としても訴求力に欠けていたように思います。本作に出てくる「よそ者、若者、ばか者」という言葉は実は地方問題の標語です。その土地に住む人にとって日常化し、当たり前となった風景。地元民が気づけないその町の特色や良さに気付けるのは「よそ者、若者、ばか者」だという意味です。

 では、町の人達がふるさととして誇りに思えるような間野山の特色や独自性は何だったのでしょうか? ・・・というと「よく分からなかった」としか言えないのではないだろうか。最終回のスピーチで、{netabare}由乃は「間野山にはこの街にしかない歴史…この街にしかない文化…この街にしかない風景がある」と言い、会長は「間野山が大切にしているのは異文化を排除することなく、知恵として受け入れ、常に変化し生き残ろうとする心だ」{/netabare}と語り、良い事を言っている風に聞こえたけれども、具体的にそれらが何を指すのかピンと来ない。間野山の将来像もやはり見えてこない。
 
 「地域活性化に即効性のある解決策なんてない」という意見も分かるのだけれど、これはフィクションであり、これはアニメなんですよ!せっかく架空の町(いちおうモデルはあるようですが)を設定したのだから、間野山の特徴と独自性、すなわち「まち再生の理念」を打ち出して再意識化するという町おこしのプロセスをもっとダイナミックに見せて欲しかった。みずち祭りがそうだったのかもしれないですが、あまり印象に残りませんでした。例えばタイトルがサクラクエストなのだから、「間野山を桜の街にする」くらいのことをしてみてもよかったのではないでしょうか。

 放映中にひたすら地味・地味と言われ続けたサクラクエスト。ライトノベルの異世界転生風にしてみたり、女の子5人組できらら的な空間を作ってみたりとアニメファンの気を引こうとあれこれやってはいるのですが、やはりそういった小手先の仕掛けで2クール引っ張るのは難しいのではないでしょうか。きららにコミカライズ連載をするとなると、男性キャラとの恋愛要素を盛り込めないというストーリー上の制約が入りますし。これ脚本家の人にとっては相当痛かったのでは。「毎週10時間の脚本会議を丸2年続けた」という関係者のツイートがありましたが、ストーリー作成に行き詰っていたことの裏返しのように思うのです。

 でなければ、{netabare}UMA好きの外国人旅行者が間野山に訪れて凛々子と仲良くなる{/netabare}なんて話が脚本会議を通るわけないでしょ!どう考えてもつまらないから!!制作者の皆さん凛々子のキャラを持て余してたでしょ!!!

 アニメを観て社会問題を識るというのは回り道です。書籍を読んだりドキュメンタリー番組を見たりするほうが近道に決まっています。アニメで扱うのであればエンタメとしての面白さ、そして見た人の記憶に長く残るようなインパクトが欲しい。つまり「地味」という感想が並ぶのは、サクラクエストが失敗作であったことを物語っているように思うのです。

 最後に…このアニメの17話・18話(早苗回)は突出して出来が良いです。続く19話・20話(真希回)も評判が良いです。これらの回は人間ドラマとして完成されているし、きちんとお仕事アニメになっています。この4話だけでも見て損はないと思います。(逆に話の核になる由乃・しおりをうまく活かせていれば全く印象が違う作品になったように感じます)

投稿 : 2018/06/03
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