Ka-ZZ(★) さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
自分には落語しかない…そんな人間の生き様は抗ってた…それとも流されていた…?
この作品は、「昭和元禄落語心中」の続編に位置する作品です。
物語の内容に繋がりがあるので、前期を未視聴の方はそちらからの視聴をお勧めします。
月日は流れ、昭和も終わりに差し掛かろうという頃…
これまで民衆の娯楽として輝いていた落語はすっかりなりを潜めてしまっていました。
確かに昭和から平成にかけてというと、落語以外の娯楽にもだいぶ幅があったのを鮮明に覚えています。
でも…完全に消えた訳ではありません。
七代目有楽亭八雲はすっかりおじいちゃん…
髪は真っ白…身体もすっかりやせ細って…サラリーマンならもうリタイアしている頃だと思います。
でも噺家に卒業なんてありません。
ですからどんなに老いても七代目有楽亭八雲である事は不変の事実…
一方、噺家として目まぐるしい成長を遂げたのが与太郎でした。
八雲と助六の落語を繰り返し擦り切れるほど勉強してきたんだと思います。
今じゃ立派な真打にまで昇進したんですから、世の中何があるか分からないっていうのは本当ですね。
思えばこの物語が始まった全てのきっかけは、刑務所の慰問で訪れた八代目有楽亭八雲演じる落語「死神」に与太郎が感動したから…
出所してから与太郎は八雲の元にすっ飛んできて…弟子はとらないと突っぱねる八雲を強姦して付き人になって…
そういえば、師匠の独演会でイビキをかきながら居眠りして破門にされた事もありましたっけ…
そこから十数年…人の変わりたいという願いを叶えるにはきっと十分すぎる時間だったんだと思います。
世の中の動きが加速していって、色んなモノがどんどん入ってきて変化のスピードもどんどん早くなって…
でも、師匠の家は昔のままの空気が残っていてなんか安心しちゃいました。
そしてこの作品で「はねっかえり」と言って頭に浮かぶのは小夏…
二代目助六の忘れ形見は、何かにつけて師匠に辛くあたっていましたが、この作品では人として一回りも二回りも大きくなった彼女を見る事ができたのが嬉しかったですね。
両親の事があったから小夏には幸せになって欲しいとずっと思っていました。
彼女は幸せだったと思います。
もちろんずっといい事ばかり…なんて事はありません。
人生ですから山も谷も数えきれないほどあったと思います。
それでもしっかり自分の足で乗り越えてきて…
新しい息吹きを感じる喜び…
広がり…固くなっていく絆をその身で感じて…
でも彼女の一番の幸せは噺家である助六の娘として生まれた事なのかもしれません…
噺家の血が小夏の中には脈々と流れているんです。
でも「女だから…」を理由にずっと袖に身を置いてきましたが、ポンと背中を押されて彼女の血が滾らない訳がありません。
まぁ、ポンと背中を押されて出来ちゃうところもまた父親譲り…なんでしょうけれど。
こんな身近にある幸せを七代目有楽亭八雲はどう噛み締めていたんだろう…なんて思います。
師匠は人として真面目過ぎたその性格は彼の人生を大きく変えました。
人生はずっと上り続けるものではありません。
ピークを過ぎたらそのカーブは徐々に下降していく…人ってそういうモノだと思います。
下降しながら、例えば子育てや会社といったしがらみから少しずつ解放されながらゆっくりと老いていく…
だから下降しながら私たちは少しずつ身軽になっていくのだと思います。
けれど、卒業の無い噺家はどんなに老いてもそのしがらみから解放される事が無いとすると…
最初のうちは大丈夫なんだと思います。
でもその重荷にいずれ支えきれなく時が必ずやってきます…
その時何を感じるんだろう…きっと解放じゃなく絶望や苦しみを感じる気がしてなりません。
それが噺家としての定め…と十把一絡げで括ってしまってはいけないんだと思います。
だから思います…
自分で磨き上げた芸は消える事がないから心中なんだと…
八雲はその芸がたまたま落語だった…
だから人が死を迎える時、背負っている重さは違えど心中は万人に共通なんだと…
そしてその事実は今も昔も変わらない…
昭和元禄落語心中のタイトル…
昭和を「今」、元禄を「昔」と解釈すると、己を磨き続けた者だけに送られる称賛の言葉で、それは今も昔も…永遠に不変、そんな風に感じます。
だって己が生涯向き合ってきたモノが自他共に認める代名詞になるのですから…
そして世の中に必要なモノも思いもちゃんと引き継がれる…この世でもそうじゃなくてもそう出来ている事を感じられた事に、この作品の優しさを感じた気がします。
こういう胸の熱くなる作品…これからもアニメ化される事を願っています。