カンタダ さんの感想・評価
3.7
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
ラスボスは愛花
この作品のボスははじまりの樹ではなく、愛花だ。テンペスト、つまり嵐の中心であり、始まりにして終わりでもあるのが彼女だ。
生前の彼女は中学生にして既に世界の真実に到達し、明晰な頭脳と強靭な精神を併せ持ち、必要とあらば両親すら手にかける。そして美少女でありながら、極めつきは最強の魔法使いだということだ。まさにチート級の彼女であるから、死後もなおその絶大な存在感を発揮して已まない。
彼女の生前も死後も振り回され続ける真広と吉野は言わば、釈迦の手のひらの孫悟空だ。これをラスボスと言わずしてなんと言おう。はじまりの樹にしても、愛花の自害という一手で詰んだのだ。結果的には彼女の望んだとおりのシナリオで話が結ばれる。要するに彼女の完全勝利で物語は幕を閉じるのだ。
そして愛花に比べれば葉風など吉野の彼女としての埋め合わせにはならない。どう贔屓目に見ても「死後であっても」愛花の方が圧倒的に優位だからだ。もし仮に愛花が生き返っていたならば、吉野は迷わず愛花を選んだはずだからだ。
もし葉風を愛花と対等の地位に就かせたいのであれば、二人の対決時に葉風は愛花に一泡吹かせなければならなかったが、終始圧倒され恋敵としても、魔法使いとしても完敗してしまった。ゆえに葉風は愛花の劣化版彼女と見做さざるを得ない。やはりここでも愛花が絶対的優位を保つ。
ここまでくれば、羽村など必要なかったのではないかと思わせるほどだ。すべてを愛花自身が知略を巡らせ、事態の解決を図ればよかったのではないか。もちろんそれはできなかった理由はいくつか挙げることができようが、その理由も後づけの言い訳にすら思えてしまう。
それにしても愛花が両親を殺害したことを、真広と吉野はなにも思うところはなかったのだろうか。どんな理由があるにせよ、親殺しは許されない行為だが、愛花はこれに関してまったく意に介していないようだ。真広も同様で、最初から親がいなかったかのようにまったく問題にしていない。
原作では真広の行動の自由が制限されるのを恐れ、加えて、はじまりの樹を倒さない限り両親が死んでしまう可能性があるから殺害に至ったわけだが、だからといって殺していい理由になるだろうか。
もし、はじまりの樹の討伐に失敗したとして人類の大半が死んだとしても、両親、あるいは片親でも生き残る可能性がないわけではない。にも拘らず彼女はその可能性まで躊躇なく摘んでしまう冷酷さだ。
これが仮にはじまりの樹を倒す必然として真広か吉野、あるいは両方が殺されなければならなかったらば、愛花は躊躇せずに殺しただろうか。恐らくそうだろう。両親を殺せて、兄や恋人が殺せないはずがない。それほどの冷酷さなのだ。
恐ろしい娘だ。居ずして二人の主人公の主導権を握って離さず、その周囲を巻き込む愛花はまさにテンペストの渦の中心、冷酷な氷の女王、圧倒的ラスボスだ。