岬ヶ丘 さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
生と生きる、死と生きる
日本アニメ(ーター)見本市の短編版は見視聴。
前・後編90分のテレビアニメだが、尺や内容のスケールを踏まえると劇場版映画を見ているような感覚。物語の世界に龍がおり、その龍の歯を人間が手入れする「歯医者」という設定が非常に面白い。その発想はなかった。
作品のテーマは人間の生や死。龍はその人間の生や死を司る象徴ではないかと感じた。龍の歯医者になるには、己の死を受け入れることが必要。彼らは己の最期を知りながら仕事を全うする、ある意味達観めいた人間の集まりである。
ヒロインの野ノ子も、表立った表情には見せないものの、色々な思いを胸に秘め熱心に仕事に取り組む。基本的にはひた向きに頑張る姿に好印象。
空で彼らなりの価値観で生や死を全うする「龍の歯医者」と、地上で争いを続け簡単に命を奪い合う人間たちとの対比が印象的だった。
また同じ歯医者でも御堂らのように自らの死を悟り粛々と仕事を全うする者、かたや柴名のように自らの死の運命に抗い続ける者、どちらが人間としてより生きることなのか、このあたりも難しい話。どちらにしても己で運命を選ぶ意思があるかないか、それが大切というのも作品の大きなメッセージのような気がする。
黄泉帰ったベルも作中で重要なキャラクター。野ノ子と出会い仲良くなるが、彼はキタルキワに野ノ子を殺すはずの軍服の青年と髪の色がよく似ている。最終的に彼は龍とともに野ノ子に想いを馳せながら、自らの身でもって野ノ子を守った。恐らく野ノ子を殺すはずの青年とは別人だったということか。また彼は本作の語り部的な役割を担っていた気もする。
これまでアニメと言えば、深夜アニメが中心で同じアニメでもこういう毛色の作品はあまり見てこなかった。アニメといっても本当に色々なアニメがあることを再確認。たまには違った雰囲気の作品を見ると頭の中がリセットされてクリアになる感覚になる。たまにはこういう作品もいいな。