kurosuke40 さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
心の風景の中へ
ピュア・イリュージョンという、それぞれの人の心が映し出す世界に入り込める少女たちの話。心の世界は摩訶不思議。
登場人物の世界の見方をそのまま表現するというよりかは、オマージュが散りばめられ、アニメータや視聴者も含めての心の風景描写という側面もあり、見ていて飽きない描写になっていますね。心の中という奇異な世界の描写や戦闘の迫力や軽快さなどはアニメという媒体の面目躍如だなぁとアニメーションとして魅了されました。
また脚本的には個人的に美術部の彩先輩の話が一番印象に残りましたね。
心は過去の出来事をすべてしっかりと記憶しているわけではない。美化しすぎることもあれば、実際よりも悪く記憶していることもある。また事実でないことを事実だと勘違いしたまま記憶していることも。例えばフロイトが患者さんにやけに過去に性的な暴力を受けた人が多い、むしろ多すぎておかしいと指摘したことがあって、(実際に統計と比べるなどして科学的に事実確認したわけじゃないけど)実際に性的な暴力はされていないのだけど、例えば幼少期にイヤーな人にキスされた程度でも、心の傷の深さから、性的に暴力されたと思い込んでいるんじゃないかと推測している。実際はどうかはわからんが、私も心はそれくらい適当なもんだと思っている。
彩先輩は「塗る資格がない」と頑な態度を貫いていた。それは過去にマニキュアのお礼の約束を果たせず、おばちゃんから逃げてしまったからだ。(そして多分その後も果たせなかったのだと思う)
そんな中でココナたちは、先輩の心の奥底に入り込む。ピュア・イリュージョンが風景だとしたら、鳥居の中は絵の具や何を描くかという意図に当たる部分があるのだろう。その中でココナたちは約束を果たしてしまった。ただし、彼女らはタイムトラベラーではない。約束を果たした描写も心の風景内であり、客観的事実として彩先輩は約束を果たしたわけではない。それでも心は約束を果たしたと見なした。その結果、彩先輩のマニキュアに関する見方も変わり、綺麗でしょとマニキュアを塗った手を満面の笑みで見せてくるようになり、同時に美術に対しての原動力は落ちたように見えた。
ココナも反芻しているけど、果たしてこれは良かったことなのだろうか。
トラウマが減ったという現時点でのメリット、芸術を嗜む彩先輩の原動力が弱くなったという将来的な視点でのデメリット、そして何より彩先輩自身が選んだというわけではないこと。
本当に良かったのかなと今でもわからないし、各々が回答を持っていい部分に思える。私は、果たすのは彩先輩であるべきだったと思うかな。
また視点を変えると、彩先輩の出来事は今を、今の行動を変えるのに過去を変える必然性はないということ。必要なのは心を変えることであって、「男の価値というのはどれだけ過去へのこだわりを捨てられるかで決まると思っている」「きっとお前はは十年後に、せめて十年でいいから戻ってやり直したいと思っているのだろう。 今やり直せよ。未来を。 十年後か、二十年後か、五十年後から戻ってきたんだよ、今。」あたりに通じるでしょうね。
(まぁ決意だけでは無意味に終わるもんだけどね)
全体的に楽しめたのだけど、後半の〆が、普通にエンタメ的に作品を〆る脚本になってしまったのがちょっと残念だったかな。
対立軸が思春期対立軸(自由意志娘と過保護ママ)で、今までの話(上で記述したようなこと)より心のレイヤーが一段階表面側だなぁという印象を持って肩透かしを食らったのと、過保護ママが確かに暴走はしているけど、それを怪物的に描写していてアンフェアな勧善懲悪な〆に感じてしまった。
過保護といっても気持ち自体に邪な部分があるわけではなく、1つの選択肢として絶対悪にはならないと思う。最終決戦周りで過保護ママにより世界が描写されているなら、怪物的に描写されるのはパピカ側だろうと思うし、それでは過保護ママを怪物的に捉えて描写しているのは誰の世界の見方かと言うと、脚本。「国語教育とは道徳教育である」をまんまいった、勧善懲悪になってしまっていて、せっかく環世界という視点があるのに、それを徹底できていない。もしくは設定の描写不足なんだろうなーと思えてしまった。脚本の環世界で物語が描かれること自体は普通だけど、メタに捉えた作品だったので、そこまで徹底できると良かったのかなと。まぁ商業的には難解になって企画通すの辛そうだけど。
〆自体に不満たらたら書いているけど、ちゃんと最初から綺麗に〆につながるように脚本が描かれていて作品としてしっかりと閉じていると思う。ただ〆への流れが急激で、キャラの深堀はあんまりしなかったのもあって、最終的には心を描く作品としても、エンタメ作品としても「帯に短し襷に長し」という印象。でも、心を描く作品としては結構好みでした。
キャラ深堀しなかったのは逆に言えば、ピュア・イリュージョンから見る以外に人の心なんてちゃんと見れるわけがないよ、という主張だったのかな、なんて深読み。
ご精読ありがとうございました。