101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
脳にかく青春の汗
原作小説の『<古典部>シリーズ』は未読。
高校生にして早くも運動部から文化系へと逸れて行った私にとっては、
薔薇色の青春を避け、灰色の“省エネ”を心がける主人公少年の
見る風景に大いに既視感を覚える作品w
もちろん推理、洞察力皆無な私とは頭脳レベルは比較になりませんがw
それでも例えば、熱い中、運動に精を出す体育会系を斜に見る冷めた態度とか。
そのくせ無理矢理、頭を回転させられると、
脳内物質という青春の汗をかいて、実は秘かにテンション上がっている所とか。
周りの何も知らない連中とは違って、自分だけ真実を知った気になって、
若干の侮蔑と苛立ちを含んで、考察結果を開陳する若気の至りとか。
文化系ならではの青春表現が記憶の奥底まで突き刺さり、
何だかこそばゆい気恥ずかしさを感じますw
“省エネ”主人公少年に好奇心の瞳をまぶしく輝かせ、推理を迫るヒロイン。
薔薇色の突風と、灰色の抵抗勢力?の攻防が演出の軸で、印象的ですがw
それと同じか、それ以上に私は主人公と「データベースは結論を出せない」親友。
少年二人の会話も渋味が効いていて好き。
知能指数高めなオブラートに本音を隠しつつ、
互いのイタイ部分も含めて論評し合う、際どいトークにソワソワしてしまいます。
しかし果たして、現代社会にこんな渋い会話を交わす高校生がどれくらいいるのでしょうか?
スマホやケータイ、メールやSNS上ではほぼ見られない。
さながら明治文学の登場人物がタイムスリップして来たかのような不思議なやり取りw
でも世の中の片隅にはこういう文化系も確実に棲息しているものと思われます。
原作複数巻アニメ化されたと言うエピソードの中では最後のお話がお気に入り。
{netabare}時に鬱陶しいくらい「わたし、気になります」と好奇心の充足をねだって来たヒロイン。
その生態の理由について、ヒロインが地元名家の娘で、
祭りでも重要な役を演じねばならず、成人後もこの町に住み続け伝統を継がねばならない。
だから立場上、無闇に好奇心のまま飛び回る大人にはなれない。
一端が明らかになったシーンが特に印象に残っています。
結局、探求などいつでもできると思っている“省エネ”主人公と、
好奇心で薔薇色の竜巻をまとえるのは今だけとわきまえているであろうヒロイン。
時期限定か否かが、輝きへの渇望を左右するというシンプルな解答例。
主人公の鋭い洞察を持ってしても、
ずっと一緒の部にいたはずのヒロインの心境にここまで気付けずにいた。
思いの外、感じた衝撃と共に、作品全体が引き締まりました。{/netabare}
作画では鈍色の空が印象的。
同じ京アニのアニメ版『AIR』の鮮やかな蒼穹とは対象的な中間色が、
文化系の渋い青春と、日常的に続いた薔薇色と灰色の攻防を
上手く絡め取っていたと思います。