takekaiju さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
優しいテロリズムなら悪くない
オープニング前の冒頭の数分で引き込まれる。
何の前情報もなくいきなり始まる核再処理施設での強奪事件。登場人物のアクション一つひとつに無駄がなく、次に何が起こるのだろうと期待に胸を膨らませたところでオープニングに入る。何かが盗まれたんだなとわかるだけのシーンなのに、この後の展開をここまで楽しみにできる作品も少ないと思う。
全11話と1クールにしても短めの作品だが、中だるみなく視聴者を釘付けにする展開がすごい。スピード感溢れるアクションシーン、警察が無能に見えてしまうほどの鮮やかな手口、対照的な性格の主人公たち(イケメン)、圧倒的な組織力を持った敵(FBI)、どれ一つ欠けても物語は冷めたものになってしまっただろう。
俺TUEE系の作品はあまりに強すぎる主人公が一人勝ちしていると一気につまらない作品になってしまうことが多い。ところが今作は、あと一歩のところで追い詰めきれない警察(柴崎)や一見すると足を引っ張っているようにしか見えない三島、何より主人公たちと同じ力を組織で運用するハイヴの存在がいい具合に引き締めてくれてナインやツエルブの無双感を紛らわせている。
一方で、各キャラクターの描写が浅かったり、いいように作品に使われてしまっているアメリカ(FBI)の存在など不満な点も残る。
キャラクターの描写、特に行動の動機については明らかに描き切れていない、もしくは意図的に伏せてあるのだろうか。主人公たちがテロリズムを起こす動機や三島が家出する理由はいち演出として描かれるだけで視聴者が共感することはできない。ハイヴがナインを狙う理由については描かれてすらいない。尺の関係上難しかったのだろうが、重要なファクターである登場人物の心理面が描き切れていないのはマイナスだ。
こうした社会的なアニメでは、よく敵性存在としてアメリカが描かれることがある。今作でも冒頭で強奪されたものを狙ってFBIが登場しているが、彼らの行動と理念にはミスマッチが見られ、緩衝材として用いられているだけに思えてくる。目的の異なるハイヴに従順にしたがっているところや作戦に失敗するや否や証拠隠滅を図るところなど杜撰な行動が多く、作品の中では雑な扱いが目立つ。
テロリズムを肯定するわけではないが、行為自体を目的とせず主人公たちには目標を初志貫徹させるところは他の作品にない見どころになっていると思う。「悪が勝つ」、いわゆるバッドエンド的な展開にもかかわらずそれほど悲観的なエンディングではなく清々しい気持ちで観終わることができた。それは自己中心的な目標を掲げた絶対悪ではなく、社会にとって異物である自分たちの存在を世に知らしめるというある種共感できる目標だったからではないか。