Dkn さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
複雑なようで実はストレートな娯楽作
時代を切り取ったアイドル像、そして普遍的な解離性を表す題材
アイドルから女優へと転身する主人公“霧越 未麻”
事務所社長から女優に向いてると言われ、役者の道に進み出し始めるところから物語が始まります。主人公の印象としては世間知らずの生娘で、流されやすく主張をしない、八方美人とも言える
{netabare}
作中でペットである熱帯魚が死に、はじめて激情的に不満を吐露する。主人公である彼女を追っている筈のストーリーで、作中の登場人物はおろか視聴者側にも己の本心をぶつけるようなシーンがここ迄無く、彼女の性格がよく分かるシーン
{/netabare}
この作品で扱われる主題は二面性。“霧越 未麻”という女性と、カメラに映し出される女性。アイドルである自分と女優である自分。自我と非我。作品の中で更に“演じる”行為は、ミラーハウスで幾重にも写し出される自分を俯瞰的に見ているようで、観ているこちら側も境界が曖昧になっていき、映像に組み込まれていく感覚がある
{netabare}
ストーカー(本当はマネージャー)が作成したホームページで、未麻自身が書いたような日記を見て、テレビに映るパブリックイメージの自分と、他人が書いているはずの本心を吐露した文章を対比したシーンがあります。一種の煽動から、書いてあることが本心ではない筈なのに夢遊病者のように自分が書いたものではないかと錯覚していく。勿論彼女自身にも後悔や葛藤があるのでしょうが、周囲の声に流されやすく、対外的な場所に重きを置いてしまっている未麻だからこそ嵌ってしまう
徐々にエスカレートしていく過激な仕事に、もう一人の自分と乖離していき、日常が白昼夢のように過ぎて演じている時と現実が混ざり合っていく。作中で未麻が出演する連続ドラマと、自身の身の回りの出来事がリンクする
ラストシーンに向けて、最後に起こる出来事に対しての映像の違和感を少しずつ無くし、視聴者側に目の前の映像を理解させる作業を与えて先を予想させず、伏線の回収もスムーズ
二面性という言葉が未麻だけに掛かるものでは無かったという事だった
視聴後も晴れやかで面白いものを見たと、作中での雰囲気とは真逆の感覚になるようなエンディングが印象的
「私は本物だよ」という未麻の台詞は、作中で何度も写った過去の自分。アイドル衣装を着た彼女にいわれた言葉対するアンサーで、彼女の自己を肯定する儀式で、時間がない中でもたまに病棟へ足を運んでいるのは確認なのかもしれない
未麻という女性は過去を克服した(もしくは途中)かもしれないが、監督からは「どっちの出来事がホントか?」と言われてるようにも見え、夢(芝居)と現実の反転が起こった事が実はウソで、ホントの未麻は夢で見たような殺人犯だとしても、それはそれで面白いかもしれない
ビデオ屋のサイコスリラー映画に対する監督のボヤキなど、主題含め、時代特有の風潮や事象を皮肉に取ったようなメッセージが何度か投げかけられている作品
{/netabare}
監督(今敏)が書いた最後のブログを読み、
間違いなく日本のアニメーション作家の中でも特筆すべき作家であったし、これからも変わらない
彼が捧げたアニメーションという世界、そして作品に、1つの曇りも無いと今でも思っている