STONE さんの感想・評価
4.5
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
9課再び
原作は未読。
続編と言うことで基本的な世界観や設定は1期と同じくしながら、若干毛色が異なっており、
個人的にはそれぞれ異なった魅力を感じる、いずれもよく出来た作品といった印象。
本作では「個別の11人」を端に発する合田 一人の陰謀と、クゼ・ヒデオの活動が主軸と
なっており、政治劇としての側面が強くなった感じ。
一見本筋とは関係ない幕間回と思われるような回も本筋に繋がる伏線となっている回が多く、
この辺が本筋に繋がっていく展開がなかなか飽きさせない。
プロット的には複雑さが増したようで、それをうまいことまとめている感があるが、
その反面焦点がぼやけた印象も。
この事件の重要モチーフとなるのが難民問題で、昨今のヨーロッパを始めとする難民問題を
見るにつけ、放映時より生々しい印象がある。
この難民に対するスタンスとして興味深かったのが「個別の11人」に代表される
個別主義者で、単純な難民擁護、難民排斥ではなく、「難民を攻撃することで難民の蜂起を
促す」という右とも左ともつかない思想が印象的。ある意味、凄いツンデレみたいな感も
あるけど(笑)。
1期に較べるとサイバーパンク的ガゼットは幾分減った感はあるが、タイトルにスタンド・
アローン・コンプレックスを引き継いでいるように個々の意識の並列化や集合意識といった
要素は本作も重要なファクターになっている。
まあ、本作ほど電脳化されていない現実でも、個々の意識が世論という集合意識めいたものを
形作り、それが個々の意識にも影響を与えているところなど、ネットワークが強化されれば、
それがより顕著になるものの、本質的な部分は電脳うんぬんとは関係なく、人間の持つ
特性なのかなと改めて感じたり。
一方、ゴーストに代表される自己や自我の認識の問題の方はもっぱらタチコマが引き継いだ
印象が強く、最終話における自己犠牲的展開は1期と同じくするものの、描かれたそれは1期
以上にゴーストの存在を感じさせるものであった。
そういったテーマ性とは別に他に萌えキャラやマスコットキャラなどがいないせいも
あるためか、タチコマの愛らしさは際立っており、ハードな世界観の中で一服の清涼剤と
なっているような。それだけに最終話における行動により涙してしまうのだが。
サイバーパンク世界で9課が活躍するアクション劇といった側面で観ると、本作での9課は
合田に対しては攻められる側で、クゼにはかなり振り回されるといった感じで、なかなか
カタルシスが得にくい感がある。
この辺は作中でも語られた物量に対する弱さなどの9課の弱点が露見したような印象があり、
更にある種の独立部隊的印象の9課もあくまで国家の一組織であることを改めて感じたが、
こういった弱さがあるからこそ、作品を魅力的にしているのではないかと。
キャラ的には草薙 素子の過去が描かれたのが印象的。もっとも攻殻機動隊各作品はパラレル
ワールドとなっているようで、あくまでのその中の一つといったものだが。
これが単に素子の過去を描いただけではなく、その過去においてクゼと関係があることで
ストーリー的にも重要な意味を持っており、そのために素子の弱気な一面が見られたのが
これまた印象的。こういった弱さが素子というキャラをより魅力的にしていたような感が。
素子の両翼を固めるバトーとトグサも相変わらずのらしさを発揮しており、1期の
元ボクサーを巡る回と同様に本作の天使の羽根を巡るピックアップ回などはビターだが
ハートフルな内容がなんとも味わい深い。このピックアップ回以外を含めてもこの男が9課で
一番繊細なんだろうなと言う思いがより強くなった。
一方のトグサは未だに青臭さを持ち合わせており、それが活動における詰めの甘さにも
繋がっているみたい。ただ、組織というものにおいて、実際の活動内容は現実的な折り合いが
必要でも、その存在意義や活動理念にはある種の理想論的なものが大事であることがあり、
そういった意味ではトグサのこういった部分は、他のメンバーが良くも悪くもすれていることも
あって、結構大切なものかもしれないという感があった。
サイトーやパズといったこれまであまり掘り下げられなかったキャラをフィーチュアした回が
あったのも嬉しいところ。
1期からそういった傾向があったが、本作は他作品(主に洋画)からの影響がより強くなった
感があるが、こういった部分に関して、パクりなどという気はなく、むしろうまいこと
攻殻機動隊世界に落とし込んでいるなと感心する。
まあ、攻殻機動隊が他作品に影響を与えていることも多く、こうやって互いに創作のヒントを
与え合っているのはむしろ良いことだなと思ったり。
影響と言えば、フィクション作品だけでなく、「個別の11人」のビル屋上での演説後の
自決は三島事件を思い起こさせるし(「個別の11人」関連そのものが三島 由紀夫を思わせる
部分が多いけど)、クゼの海上での銃撃戦は海上保安庁と北朝鮮の工作船との交戦を
思わせたりと現実にあった事件からの影響も強く感じる。
ドラマを盛り上げてくれる音楽も良かった。