STONE さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
底辺からのスタート
原作は未読。
とにかく増えた感のある異世界転送ファンタジーものだが、同系統が多いだけにどこに
個性化を図るかが重要に思える。
多くの作品が転送に際して何らかの能力などが貰えたり、あるいは転送前の技能が転送後に
有益になるなどプラスアルファでスタートするものが多い中、本作は主人公達が弱くどん底から
ゆっくりと成長していく過程を描いた切り口が目新しい。
このゆっくりをていねいと捉えるか、退屈と捉えるかは人によりそうだが、個人的には
このていねいな描写に好感を持った。
底辺からのスタートゆえにグリムガルでは最弱のゴブリンにも苦戦するが、ここでの互いの
必死さがかなり生々しく、互いの生への執着がよく描かれていたように思えた。
そして、ようやく対ゴブリンに手慣れてきた頃にリーダーのマナトの死。これが本当に呆気
なく、改めて常に死と隣り合わせであること突きつけられたような感じ。
こうした感じのために戦闘に関しては他作品のような痛快さはあまりなく、観ている側も
緊張感を強いられるような印象がある。
それだけに対比的な日常が本当に心休まるものに感じられるが、この日常の暮らしぶりや
他愛ない会話などもていねいに描かれていて良かった。
もう一つの特徴が、他の義勇兵やギルド関係者が多少描かれたりするものの、ほとんどが
ハルヒロのパーティーという局所的描写に終始していたこと。
例えば同じ異世界転送ものだと、「ログ・ホライズン」、「オーバーロード」などは主人公
周辺のみならず、各所を描く一種の群像劇スタイルで作品世界そのものを描こうとする
スケールの大きさを楽しめるが、本作は逆に徹底的に絞り込むことによる密度の濃さが
楽しめた。
そして、主人公パーティーに絞り込んだことにより、とにかくパーティーメンバーのキャラが
良く立っていた感がある。
展開としては、面識のない6人がパーティーとしてまとまりを見せつつあった途中での中心的
存在であるマナトの死。
そして、ハルヒロを新リーダーとして、新メンバーであるメリーを加えるもうまく馴染めず。
それを乗り越えて一つのパーティーとしての一体感を得る、といったところだが、これって
異世界ファンタジーの体裁を取っているが、現実の組織形成にも充分通じるもので、そういう
意味では団体競技のスポーツものやバンドものなどに近いものがあるような。
アニメとしては話途中で終わったが、メリーが前に踏み出せずにいた過去の心残りを消し、
ようやく一つのパーティーとして進める状態で終わったのはそれなりにいい締めに思えた。
それまでまったく笑わない存在であったメリーの笑顔がそれを象徴していたよう。
水彩画のような背景や音楽も作品世界の雰囲気を盛り上げるのに役立っていたように思える。
音楽と言えば、挿入歌がやたらと多かったのが印象的。過去作品だと「Aチャンネル」も同じ
ようなことをやっていたが、いずれも曲を売りたいための行為との批判もあった。
そういう事情があったのかもしれないが、個人的には言葉を使わずに心情や状況を伝えようと
するこういった演出は嫌いではない。
2018/06/17