一日分のビタミン さんの感想・評価
4.6
物語 : 3.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
吹奏楽「部」でしか描けない関係性
【追記】描写不足を感じたオーボエ奏者を中心にした前半のエピソード(1-4話)はスピンオフ映画の「リズと青い鳥」(2018年4月上映)で十分に補完されていましたので点数を上げておきます。
一期ではバラバラだった吹奏楽部が京都府大会に向かってまとまっていく部活ものとしては王道の展開を描いていました。
二期はすでに団結していている状態からスタートします。合奏シーン自体は多くありますがあまりコンクールを勝ち上がる説得力はありません。いくら合奏しても個々人の基礎力が上がらないと意味がないからです。顧問の滝先生は厳しい指導を行うという設定ですが、普通に合奏しているだけにしか見えませんでした。
{netabare} 関西大会前にオーボエ奏者の表現力が上がるというイベントがありますが、総合力の勝負なのでそれだけでは突破できません。話の都合上、予選を勝ち上がりますが二期のテーマはコンクールの勝ち負けそのものではないということでしょう。{/netabare}
演奏技術の向上の過程を描くという点では一期より後退した印象がありますが、代わりに顧問や久美子を含めた部員が抱えるそれぞれの過去や家庭の事情、内面の葛藤にフォーカスが当たります。実写ドラマに近いので派手さを求める人には地味に感じると思います。エピソード的にフォーカスが当たるのでやや散漫な印象を受けるかもしれません。それぞれが久美子に事情を告白するのでご都合主義という批判もあると思います。
オーボエ奏者が主役となる前半は一応音楽が物語の鍵になりますが吹奏楽部という舞台設定をあまり生かせず話の展開もやや強引な印象を受けました。一方で後半はまさに吹奏楽部特有の関係を描いていると感じました。それはパート内における先輩後輩の音楽を通じた絆です。どの部活にも先輩後輩の関係はあると思いますが、吹奏楽部でのそれは感情を直接揺さぶる「音」を介したものとなるため情緒的な関係になると思います。後輩が先輩の奏でる音色に感化されその過程で「自分もこんな音を吹きたい」というアイデンティティーを確立し一人の奏者として自立していく。純粋に音楽的観点で言えば素人よりプロの演奏を参考にした方がいいと思います。しかしプロを目指すわけではないけど音楽は好きっていうスタンスだと遠い存在のプロより身近の上手い人に影響されるわけです(もしかしたら強豪校はこの辺も顧問が管理しているかもしれませんが)。こうしたアマチュアリズムは職業音楽家を育成するという観点から吹奏楽「部」が批判される理由ではあるんですが、そこがまた商売ではない部活として音楽活動をすることの良さでもあるわけです。※この点プロ志向と思われる高坂麗奈は先輩の影響を全く受けてません。またピアノや弦楽器だと管楽器より早い時期に成人の講師に師事するので事情が異なると思います。
{netabare}あすかは家庭環境が複雑で屈折した心に闇を抱えたような描かれ方をしているので、終盤に掛けて急に久美子とあすかが接近するのは視聴者には理解しがたい所があるかと思います。でも久美子は自分でも気づかないうちにあすかの「音色」に魅了されていて最後には彼女から生き別れた父親との繋がりの象徴であるノートまで託され気づいたら後継者になっていたんですね。{/netabare}
作中でクローズアップされているもう一組の先輩後輩の関係と言えばトランペット2年の吉川優子と3年の中世古香織の二人がいます。香織は美人で人徳者という非の打ち所のない設定で優子はそんな彼女を慕っています。外部から見ればこの関係性の方が理解しやすく好感も持てると思います。{netabare}でも彼女は1期11話(オーディション回)で「先輩の音が聞きたい」とは言っても結局最後まで「先輩の音が好き」「先輩のように吹きたい」とは言ってないんですね。久美子とあすかの関係性とは対照的にまず人間性ありきでそこに引っ張られる形で音楽性の評価をしている印象です。卒業式に優子は香織からスカーフを貰っていますが音楽とは関係ないものでした。結局、最後まで二人の関係は真の意味で音楽を介したものではなかったのかもしれません。一方で久美子はあすかを「気難しい人」で「嫌いだったかもしれない」と言いつつ「先輩の音が好き」と力強く宣言します。その人でしか出せない「音色」というのはいわばその人の分身であり「先輩のように吹きたい」とは先輩の魂を部内で受け継いでいくという決意表明でもあるわけです。たとえそれが職業として結びつかないとしても。{/netabare}
{netabare} 後半は久美子とあすかの関係に焦点が当たるので、それまで彼女の中心にあった麗奈との危うい同性愛めいた関係は中途半端に終わります。また原作にあった幼馴染のトロンボーンの塚本との恋愛関係も大幅にカットされ久美子をサポートするような役割に改変されています。{/netabare}これは尺の都合もあると思いますが久美子にとってあすかとの関係の方がこの時点の彼女の成長にとっては重要なんだと印象づける効果があります。
閉じられた部活内での会話が中心のためアニメとしては結構地味だと思います。アニメというよりドラマに近い印象を受けました。京アニの作画でなかったら間が持たなかったかもしれません。ただ実写にすると表現が過剰になって白々しくなっちゃんでしょうね。実写とアニメの間の「何か」ですね。
一期を見て北宇治の面々のことをもっと知りたくなったら見てもいいんじゃないでしょうか。
{netabare}最後に全国大会の結末ですがあの練習の描き方だと銅賞以外にありえません。アニメではさらっと関西大会を突破しますが、元々原作ではライバル校のミスもあって奇跡的に突破するという描き方なので全国大会に辿り着いた時点でピークなんですよね。演奏がカットされていることに批判もありますが全国大会でも予選と同じ曲を演奏する旨の説明があった方がよかったと思います。 {/netabare}